“時と時計”の歴史を通じ、企業文化を発信する「セイコーミュージアム 銀座」(2)

丹青社, セイコー, セイコーミュージアム 銀座,建築

2 17:25

銀座の街に溶け込む、時計のパーツで描いた並木のファサード

──今回特にこだわった、このミュージアムならではの工夫はありますか?

高橋:そうですね、たとえば時計の歴史を紹介する3階は、ほかのフロアの明るさから一転して、フロアを暗くして天井の存在を消しているのが工夫のひとつです。この建物は、地下1階以外はミュージアムとしては天井が低いため、ずっと明るいところにいると気になってくる方もいらっしゃるかと思いますが、間に暗い部屋を差し込むことで、その感覚がリセットされるという効果も期待しています。

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(左上から時計回りに)2階、3階、4階、5階

高橋:さらに明るさだけでなく照明の色温度もフロアごとに変えています。照明や内装によって、テーマごとにフロアの特徴を切り替えるというコンセプトをさらに際立たせました。

ただ展示品を並べるだけではなく、空間デザインの力で、主役である貴重なモノやエピソードが来館者にしっかり伝わるように、まわりからそっと後押しする──それが私たちの仕事だと思っています。

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村上:フロアの狭さを少しでもカバーするために各階で使われている、「引き出し展示」も特徴的な工夫ですよね。ケースの下の引き出しを開けると、さらに展示品がたくさん用意されているんです。

高橋:ケースや展示物自体が小さいので、照明器具もマイクロスポットライトという、小さなものを使っています。今回は、時計を扱うプロフェッショナルであるみなさんの、時計を美しく見せるためのこだわりにも触れることができました。お客さんの視線の位置から考えると、台の高さや時計の角度は、すべて決まってくるんですよね。

村上:時計は表面積が小さいので、ライティングの角度が少し違うだけで影が出てしまう。時計のディスプレイって、けっこう難しいんですよ。

──空間の外に目を向けると、外壁に描かれた樹木も印象的です。

高橋:並木通りにあるミュージアムということで、ファサードも通りと調和するように並木のシルエットのデザインにしました。でも、近付いてよく見ると、それがセイコーの技術の象徴である時計のパーツの集積でできていることがわかります。街の景観との調和、ミュージアムとしての主張。そのふたつを、ファサードでグラデーション的に切り替えられないかと考えてデザインしました。

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ファサードでは並木を時計のパーツで表現

村上:たくさんの時計のパーツの中には隠しモチーフもあるんですよね。並木通りは、世界的なブランドの旗艦店がオープンするなど、周辺の雰囲気がとても明るくなりました。マロニエ通り周辺はセレクトショップも増えて、今は若い人もとても多いです。銀座って大人の街というイメージがありますが、実は服部金太郎の時代から、いつも新しい風を受け入れて変化してきました。そういう意味では、銀座の新しい街の雰囲気に、このファサードはとてもよく合っているように思います。

文化を発信することが、企業の強さになる

──これからの展望について聞かせてください。

村上:このビルは実は10階まであり、1棟すべてをミュージアムとして利用しています。今後は企画展や子ども向けの時計組み立て教室、講師を招いての座学なども行えたらと思っています。また、1万6,000冊ある蔵書を段階的に閲覧できるようにするなど、セイコーグループのアーカイブの先端となる総合的な文化施設にしていきたい。まだまだ、やるべきことはいっぱいあると思っています。

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高橋:私はこれまで、さまざまな企業ミュージアムの空間づくりにも携わってきましたが、セイコーさんは「製品」「創業者」の展示に加えて、「時」の展示という3本目の柱があり、これがセイコーさんのブランド力を高めていると思います。セイコーさんのように、充実した資料やコンテンツがある企業の文化貢献度は、実はとても深く、広がりがあるものです。これからは多くの企業が、自分たちの文化をブランドとして捉え、発信していくことが大切だと思っています。

私たちもまた、そうした施設をお手伝いするときは、少し踏み込んで「こんなテーマにしてみませんか?」といった提案をしていきたい。そのときに、セイコーミュージアムはとてもよいお手本となるように思います。「時」というものは、誰もが身体の中で感じとれるものなので、それをテーマにできるって、企業にとっての大きな強みですよね。

村上:そうですね。同じ1秒でも、短く感じる人と、長く感じる人がいる。たとえば陸上競技の選手のように100分の1秒を争う人にとっては、1秒ってとてつもなく長い時間ですからね。時間って、人によって捉え方が全然違うんです。そうした「時」のおもしろさや人間の豊かさを、このミュージアムを通して気付いていただけたら嬉しいです。

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セイコーミュージアム
https://museum.seiko.co.jp/
丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/

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文:矢部智子 撮影:中川良輔 取材・編集:石田織座(JDN)
施設写真撮影:株式会社ナカサアンドパートナーズ

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