3Dで考えることは、空間デザイナーの思考の原点でもある

3Dで考えることは、空間デザイナーの思考の原点でもある

──具体事例をうかがいましたが、制作面における変化についても教えてください。

高橋:まだまだ多くの案件で2D図面を描いてから、パースとして3Dモデルを作成していますが、Revitは3Dモデルをもとに図面を生成しているため、モデルを修正すれば図面も自動的に修正されます。たとえばフードコートの設計の際、3Dモデル上にある椅子をクリックして減らすと、2D図面も連動して変わり、それと同時にどのメーカーの椅子がいま何脚残っているかというリストも自動的に更新されます。

(画面左)図面上の椅子を増減させると、(画面右)リストにも数が反映される。

高橋:これまでは、「図面とパースのどっちが正解?」という事態になったり、「図面の1箇所だけ修正し忘れた」といった苦い経験を誰もがしていると思いますが、Revitは常に2Dと3Dが連動し、整合性が保たれているのでその心配がない。展開図のチェックの時間に多くを費やさなくて済むだけでも、デザイナーの負担はかなり軽くなったと思います。「もう、2Dには戻れない」という声が多く聞かれます。

──ほかに社内ではどんな反応がありますか?

高橋:専任部門ができ、しくみとして稼働するまでには、BIM推進に適したプロジェクトの情報を収集したり、提案したりする活動を個別に行う場面が多くありましたが、今年からは体制が整い、デザインセンターとして俯瞰的にBIM化案件を選定できる体制となりました。

今は案件ごとにRevitで取り組むべきかを協議し、取り組みを拡大しています。「これはBIM化が相応しい」と判断するときもあれば、「これは向いていない」となるときもあります。今はさまざまな経験値を高めたいので、難易度が高いプロジェクトでもあえてチャレンジしています。実績を積み上げていくことで、今後に活かしていきたいと思っています。

──社内で講習会も定期的に行っているとのことですが、ノウハウの共有は、どのようにされているのでしょうか。

高橋:講習会のほかに、ユーザーを集めてスキルを共有するための社内ユーザー会議を毎月開催しています。そのほか「BIMマガジン」という瓦版を発行して、BIMに関わる人や活用事例などを記事にし、デザイナーだけでなく全社の知識を向上させるため、社内でナレッジを共有しています。

BIMマガジン

毎月発行しているBIMマガジン

佐藤:私も「BIMマガジン」を読んで、日々進化する情報をアップデートしています。デザイナー職のみならず営業職のメンバーでも、「BIMを活用して、コンペに勝ちました」「こんな風にお客さまに喜んでいただいている」という記事を読めば最新動向が共有できて、「お客さまにも提案してみよう」と横展開が進んでいます。

高橋:実際に社内での情報交換や連携が増えてきているので、これまでの活動の成果があったと思っています。現在も、BIMを導入したさまざまなジャンルのプロジェクトが進行中です。ゼネコンや建築設計事務所と協業で進めている長期の案件も多く、まだ紹介できないものもありますが、来年にはいろいろ完成する予定なので、これからは社外に向けても広く情報発信できればと考えています。

──これまでBIM化のメリットについてうかがってきましたが、デメリットや課題はありますか?

佐藤:言葉で説明するよりも、3DのCGパースを見てもらったほうが関係者の皆さんと共通認識をつくりやすいので、プレゼンテーションのスタイルは変わってきました。一方で、それが前提になることは、設計のプロセス自体も変わってくることになるなと感じています。

高橋:Revitは情報の積上げ方式なので、しっかりとデータを入力しておかなければならず、初期段階の手間は以前よりかかるんですよね。今までは「現時点では、ここまでしかつくってません」と言うことができたんですけど、ムービーのウォークスルーで確認していると「この裏はどうなってるの?」と問われる機会も出てきてしまう。それによってプレゼンまでの準備にこれまで以上に労力がかかりますが、その分課題点が前倒しに分かるので、結果的にはメリットの面が勝ると考えています。

佐藤:つくり手もですが、お客さまのプロジェクトの進め方によっても相性はありますよね。多店舗展開の業態でスピード感は必要であっても、「図面を見ながら、一緒に検討したい」と要望されるクライアントもいますので。そういう日頃のコミュニケーションの仕方やご要望を見極めながら、使っていく必要があるかなと思っています。

高橋:お客さまとのコミュニケーションだけではなく、ゼネコンや設計事務所とのやりとりにも、3Dが前提になったことで変化があります。たとえば大型商業施設のフードコートはスケルトン天井のため設備が見えるのですが、BIMだとそれがどう見えるかも検証できてしまうんですよね。なので「ダクトはどう見えるんですか?」と聞かれたりする。

また、3Dモデルで見ると、たとえば折り上げ天井がダクトと干渉していたとか、現場が始まってからしか気付かないような建築との干渉もチェックすることができ、手戻りを回避する「フロントローディング(設計初期の段階に負荷をかけ、作業を前倒しで進めること)」が設計段階で可能になりました。

こうした建築的な納まりを確認することは、2Dではなかったことで、求められる次元が変わってきたなと思います。最初のハードルさえ越えれば、スムーズに作業を進められるのですが、初期段階のスケジュール確保と作図スピードが重要になってくるので、2Dと同じスピードで推進するスキルの習得が、組織として重要になってくると思います。

──では今後、BIMを活用して実現してみたい空間デザインはありますか。

佐藤:これまでは効率をアップできるツールとしてBIMを位置づけることが大きかったのですが、3Dで図面を描くことで、以前は実現できなかったような複雑な形状の什器を生み出せたり、デザインの自由度は高まるだろうと感じています。すでにその動きはあらわになってますよね。

高橋:はい。高精細な3D形状の什器の模型をつくり、社内にある3Dプリンターで出力してプレゼンすることでお客さまに高い評価をいただけます。

佐藤:今までは「平面でつくったほうが費用がかからない」と言われてきたけど、数年後には状況も違ってくるでしょうしね。BIMを活用して模型ではなく実物をつくる時代も、そのうちくるのかもしれません。

高橋:BIMのメリットというと、どうしても作業効率の良さ、データ管理のしやすさなどが前面に出てくるのですが、「3Dで考える」ということは、空間デザイナーの思考の原点でもあると思います。本来デザイナーは誰もが自然に3Dを思い浮かべながら設計を進めているはずです。なので、最初から3Dで図面を描くということは、デザインする上では、とても素直な手法だと感じています。

BIMが「当たり前」になる近い未来を見据えて

──ちなみに海外では、どのように使われているのでしょうか。

高橋:世界では、すでに主流のソフトとして「Revit」と「ArchiCAD」のシェアがほとんどで、BIMが当たり前の設計手法となっています。導入初期はどの国も過渡期ならではの問題が発生しますが、すでに各国がそのハードルを乗り越え、BIMがグローバルスタンダードになっています。まさに日本もその過渡期にあり、丹青社のデザイン手法としてもあと数年でグローバルを視野に入れていかなくてはいけない時代になることは確実だと捉えています。

日本でも現在、国土交通省が主体となりBIM推進委員会が発足し、建設業各社の有志によるRUG(Revit User Group)という日本におけるBIMの環境整備を研究する活動も生まれ、官民一体で国内におけるBIMの標準化を図る活動が活発に行われ始めました。

佐藤:今年4月には、BIMデータによる建築確認申請の第一号がニュースになりましたね。

高橋:いずれは日本でも、確認申請をBIMデータで出す時代が来ることでしょう。建築設計にとっては、多くの建築部材のコスト管理や構造検証、設備設計などの生産設計および管理の面で、BIMの効果が発揮されると思いますが、内装の分野では生産管理的な要素ももちろんですが、空間をいかに体感いただきながらデザインを訴求できるか?商品陳列をいかに効率よく見せることができるか?なども、3Dを通して検証できることに大きな新しい価値が生まれています。そうして、でき上がった空間と認識の乖離を少なくすることが、クライアントに向けた新たな提供価値になっていくと思います。

──最後に、今後の展望について聞かせてください。

高橋:BIM推進局は組織としては稼働し始めたところではありますが、ごく近い将来、BIMは当たり前のソフトになると思っています。それも10年後などではなく数年後にはそうなるはずなので、そうした時代の変化に全社で対応するために社内全体の理解度をあげていく必要があると考えています。全社方針となった今年、すべての職種とBIMを共通言語に、お客さまの事業パートナーとして提案するクオリティを高める活動を行っています。

デザイン部門には、BIM活用の意識が徐々に生まれ、制作部門においてはBIMデータをいかに工事に活かすことができるかの研究が始まっています。次のステップとして、価値あるBIMプロジェクトを生み出すために、営業部門との連携を深めてお客さまへ提案する活動の質と量を高めていきたいので、共に推進するメンバーとして意識の向上を図る動きを始めています。さらに、BIMデータの活用として竣工後も視野に入れています。具体的には、AR・VRでのバーチャルトレーニングやBIMデータに残した製品情報によるアフターメンテナンスのサポートなどです。

例えば、空調設備モデルの情報に寿命年数も入れておけば、「故障や破損となり営業機会を損失する手前に、あらかじめ計画的にメンテナンスすることで、エンドユーザーの皆さんへの商品サービス提供の質をキープしていきましょう」と提案することができます。そうしてデザイン、施工、その後のサポートまでさまざまな情報を集約してアーカイブし運用することで、お客さまの事業の成功に長い目線で貢献していくことがBIMの理想像です。

BIMが建築、内装業界だけでなく、お客さまの事業や運営をデザインする上でも当たり前になる日は、すぐ近くに来ています。そうした未来を見据えながら、丹青社としてBIMを活用した新しいデザインを打ち出していきたいと思っています。

文:矢部智子 写真:葛西亜理沙 取材・編集:石田織座(JDN)

丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/
丹青社「BIMの活用推進による価値向上」
https://www.tanseisha.co.jp/solution/closeup/bim

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