実写にはできない、アニメーションだから伝えられること

実写にはできない、アニメーションだから伝えられること

――ここからは、メディア芸術祭について聞かせてください。『映像研』での4回目の大賞受賞はほかに例がありません。かなりの快挙ですが、どんなお気持ちでしょう?

賞をいただくのは大変ありがたいなと、その度に思います。最初は、なかなか評価されていない作品に光が当たって再び観てもらえるチャンスができることがうれしいと思いましたし、スタッフも喜びますから、受賞は頑張ったスタッフへの評価として、大変ありがたいと思うようになりました。……まあ、できたら全部大賞が欲しいぐらい(笑)。それくらいのつもりで、いつもつくっています。

――初受賞が2004年の『マインド・ゲーム』ですね。受賞時の気持ちを覚えていますか?

僕が初めて「監督」としてつくった長編作品でした。スタッフ内では「おもしろいものができた!」といった感じだったんですけど、劇場ではヒットしないし、映画祭では映画ライターから「これはストーリーがない」と酷評されることもあり、苦い気持ちも味わっていたんです(苦笑)。同じものを見ながら、なんでいろいろな感想が上がって来るんだろう。皆どういう風にアニメを見て、その人の中でどういう風に作品ができあがっているのだろうと、大きな疑問の壁が立ちはだかっていた頃で。そんな中で賞をいただけて「間違っていないところはあるんだな」と、アニメ映画監督としてのスタートは切れました。でも、ありがたいと思う反面、これで満足してはいけない、とも思っていました。メディア芸術祭がいいと言ってくれただけで、ほかの人は違うかもしれないから。自己評価はそんなに高くなかったので、賞をいただいてもあくまで「審査員の中におもしろいと思う人が多かったんだな」と思うようにしているんです。決して「賞をくれたんだから、いい作品なんだ」とは思わないよう。自分が作品を作り成長を続けていく中で、満足しないよう心がけています。

――その後、『四畳半神話大系』(以下、四畳半)でも大賞を受賞しています。

『四畳半』で賞をいただいた後、製作委員会の方が「DVDが売れた」と言っていて、「あ、やっぱり影響力あるんだ!」と思いました。受賞をきっかけにメディアに注目してもらうだけでも認知が広がってありがたいと思っていたのですが、購買への影響力も示されて。作品自体も、それまでの作品より一般化できたという自覚があったので、受賞という結果とシンクロしたところもあり、一番印象が強いかもしれません。

――メディア芸術祭では、各部門それぞれのメディアにおける新しい表現が顕彰理由としてありますが、湯浅監督が考える、アニメーション表現ならではの強みとは何でしょうか?

一時期、2Dのアニメーションが下火になったときに、2Dだからこその魅力を押し出していかないと、たぶん表現として弱いんだろうなと思ったことから、常に意識はしています。原作とアニメーションの違いなど、媒体が違うからこそのおもしろさがあると思うので、アニメーションシリーズや映画、さらに集まったスタッフによって生まれる、それぞれの強みを活かせるといいなと思っています。

湯浅政明監督

ただ、観ている人がアニメーション、作り物だということを意識しながら観るんじゃなく、起こったことがアニメの世界と言えど現実だと思いながら、集中してみてもらえるように、というのが近年の課題になっています。アニメと意識されるなら、いい意味で「アニメだな」と思って許されるところもありますし、逆に満足できない場合もあると思うので。いろんな部分の問題を指摘したがる人もいますが、総合芸術なので、最終的には画面の出来不出来が観客の満足感を左右しているのかなと思います。実写や、読み物、漫画ならではの強い表現も、動画、手描きのアニメの一番効果的な方法や、自分たちができるいちばん強い方法に置き換えて、もともとの効力と同じ力を観客に発揮できたられたらなと思っています。

――これまでの湯浅監督作品で言うと、具体的にどんな例がありますか?

『夜は短し歩けよ乙女』だったら、ミュージカルシーンですね。小説ならではの言葉の強さより、ミュージカルにしたほうが音楽や音でおもしろさが伝わるし、アニメの中の芝居と劇中劇の住み分けが明確になっていい。さらに、小説では同時に山場であるご都合主義的な展開は、もともと絵空事であるアニメでは納得感が薄いと思われたので、ミュージカル1本で大きな盛り上がりになったほうがよいと判断しました。冬のシーンも、映画のクライマックスでアニメなら盛り上げるべきと思ってそうしました。『四畳半』なら、原作小説の文体のおもしろさをナレーションとしてとりあえず詰め込むだけ詰め込んで、読む速度にできるだけ近く高速にした方が、原作を読んだ人が感じる魅力には近づくのかな、と。原作がある場合は、自分がその作品を読んだおもしろさを、アニメーションで伝えるにはどういう方法がいいんだろうと試行錯誤しながらやっています。

『四畳半神話大系』(テレビアニメーション) 「薔薇色のキャンパスライフ」を夢見る誇り高き大学3回生の「私」だが、悪友・小津や謎の自由人・樋口師匠に振り回され、孤高の乙女・明石さんとはなかなかお近づきになれない。あの時、別の道を選んでいば......?森見登美彦原作、湯浅政明監督、上田誠脚本、中村祐介キャラ原案、話題のクリエイター布陣で送る、不可思議世界を巡る不毛と愚行の青春奇譚。第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞。 © The Tatami Galaxy Committee

『四畳半神話大系』(テレビアニメーション) 「薔薇色のキャンパスライフ」を夢見る誇り高き大学3回生の「私」だが、悪友・小津や謎の自由人・樋口師匠に振り回され、孤高の乙女・明石さんとはなかなかお近づきになれない。あの時、別の道を選んでいば……?森見登美彦原作、湯浅政明監督、上田誠脚本、中村祐介キャラ原案、話題のクリエイター布陣で送る、不可思議世界を巡る不毛と愚行の青春奇譚。第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞。 © The Tatami Galaxy Committee

――湯浅監督作品の中には、線や絵が動いていることを意識させる瞬間もありますが、そこにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

基本的には「リアルに」と考えているんですけど、「ここはアニメーションとしての強みに置き換えないと、実写や漫画のような緻密さや、読み物のような個々のイメージの広がりに勝てない」と思うときがあります。たとえば、『夜明けを告げるルーのうた』で、子どもの頃の姿から現在のおじいさんの姿になるまでを、カットバックではなくてメタモルフォーゼで表現しているのは、アニメにしかできないことですよね。「実写にはできないでしょ!」「やっても大変で、そんなとこに力注がないでしょ?」みたいな(笑)。すごく陰惨な表現も、実写だとどぎつくなってしまうけど、アニメーションでやれば嫌な部分は見せずに済むことができる、とか。引きサイズでも表情の大きさや動きのデフォルメで分かりやすく、実際に人間が演じている実写の凄さに、アニメーション表現として対抗し、近づき、凌駕できたらと思っています。

――『映像研』に関しては、劇中のスケッチや登場人物たちが制作するアニメーションをそれぞれ描き分けているのが印象的でした。そのあたりはどのようにこだわりましたか?

今回頭を悩ませたのは、登場人物が劇中でつくっているアニメーションをどう区別すればいいんだろうか、ということでした。最初は、アニメの方の背景をリアルに、キャラも緻密にと考えていましたが、日常シーンの背景もそれなりに緻密になってしまったため、区別がつかなくなり、結局シンプルに変更しました。同時にキャラの方も、線なしでやってましたが、緻密だと日常とさほど区別がつかなかったため、色を絞って極端に着彩するようにしました。線なしでシンプルに成立させるため、カットによって結構色を変えたりしています。

©︎ Sumito Oowara, Shogakukan / Eizouken Committee

©︎ Sumito Oowara, Shogakukan / Eizouken Committee

通常の描写に加えて途中経過のイメージがたくさんあって、イメージ水彩画、ラフ原画、原画だけで見やすく撮影した原撮と呼ばれるものなど、たくさん種類がありました。それを差別化、調整していくのがいちばん大変だったかもしれません。実は水彩でラフな絵を描くことは、きちんと描くことを訓練してきているプロには逆に難しいことであったりするんです。水彩のラフスケッチみたいなものを立体的に動かすことは、『映像研』でやっているちょっと新しいことです。これまでの作品で、クレヨンや水彩で描かれた世界に入っていく表現はあったと思いますが、今回は平面的なスケッチから立体的なスケッチに変わります。しかも立体的なのにラフな絵です。それが新鮮かなと思います。

好きなものを発見した喜びを、自由に表現して欲しい

『犬王』©“INU-OH” Film Partners

『犬王』©“INU-OH” Film Partners

――来年夏には新作『犬王』が公開されます。

けっこう自信作です。まだできてないんですけどね(笑)。広く取っ付きやすい作品だと思いますし、自分の昨今のテーマとシンクロする部分と、初期のちょっとキワモノっぽい気分も入っていて、いままでのやってきた要素が、バランスをとれたかたちになっていると思います。そして、ミュージカルでもある(笑)。世界最古の演劇と言われる能楽がまだ猿楽と言われていた時代が舞台なんですが、現代の能よりも3倍スピードが速かったといわれていて、内容も幅広かったらしいんですね。その頃になると資料もそんなになかったので、自由に解釈して、現代のロックに近い音楽にのせて、サーカスのようなアクロバティックダンスミュージカルをやる人が現れ、一世を風靡した、という表現にしました。当時の人が飛び抜けて斬新な出し物を見た感覚として、現代の人が「室町時代が舞台のアニメ見てたら、ロックの様な音楽が流れてきた」くらいの違和感と新鮮な魅力ではなかっただろうかという解釈です。

湯浅政明監督

でも「弾弓散楽図」とかをみると、けっこうアニメくらい荒唐無稽なことやってるんですよね(笑)。たまたま歴史に残らなかったり続かなかったりしただけで、こういったことが存在したとしても別に不思議じゃないと思うんですよ。資料には残ってないけど、いまの人が考えられるものなら、当時の人も考えられたはずなので、たくさんの歴史には残らない、現代の誰かに似た人たちもいたんだろうなと。そんなことに着目してつくった作品でもあります。

――その後は充電期間に入られるとのことですが、どのように過ごされる予定ですか?

いろんなものを勉強したり、整えたいという感じです。作品をつくるためにいろいろと足りないなって思っているところがあるので、どういうやり方がいいのかとか、アウトプットのかたちも含めて、試行錯誤したいと思います。それと、とても疲れているのでできるだけ休養します。作品をつくっていると、普通に人としてのことができていないと思うときがあります。

――最後に、メディア芸術祭では前々回より「U-18賞」が設けられていますが、応募する若い世代のクリエイターにメッセージをいただけますか?

メッセージになるかはわからないんですけど……僕は、いまの若い世代ならではの作品が観られたらうれしいですね。ひとつの考えで突っ走るような作品というか、はみ出す勇気みたいなものを期待しています。頑張ってつくれば絶対財産になるので、自分が思ったことを表現して欲しいですね。

いまは熱みたいなものをあまり見せない人が多い印象ですが、自分が好きなものを発見できたときのうれしさや、「ああ、かっこいいな」と感じた気持ちから、何かつくれるといいですよね。大概のことはできるはずなので、他に迷惑がかからない限り、決めごとや法則に沿う必要はないと思っています。

――『映像研』みたいな3人組が応募してくれると、うれしいですよね。

湯浅:たぶん誰でもできるはずなんですよね。できないとしたら、自分の中で何かが邪魔をしているだけで。いろいろなことを気にしなければ、自分が自由になれる場所はどこかにあるはずですし、好きに作品をつくって欲しいなと思います。

湯浅政明監督

第25回文化庁メディア芸術祭

作品提出・募集締切:
2021年9月3日(金)18:00まで

募集内容:
メディア芸術の広範な表現による多彩な作品

※2020年9月5日(土)から2021年9月3日(金)までの間に完成または、すでに完成してこの期間内に公開された作品。
※更新、リニューアルされた作品で上記期間中に完成、または発表された作品も応募可能です。
※応募する作品数に制限はありませんが、同一の作品を複数の部門に重複して応募することはできません。
※応募者は作品の著作権を有することが必要です。作者(著作権者)以外の方が応募する場合は、必ず著作権者に承諾を得てください。

【アート部門】
インタラクティブアート、メディアインスタレーション、映像作品、映像インスタレーション、グラフィックアート(写真を含む)、ネットアート、メディアパフォーマンス等

【エンターテインメント部門】
ゲーム(テレビゲーム、オンラインゲーム等)、映像・音響作品、空間表現(特殊映像効果・演出、パフォーマンスを含む)、プロダクト(メディアテクノロジーを活用した製品、研究開発デバイス等)、ウェブ・アプリケーション等

【アニメーション部門】
劇場アニメーション、短編アニメーション(オープニング映像、エンディング映像等を含む)、テレビアニメーション、ネット配信動画等

【マンガ部門】
単行本で発行されたマンガ、雑誌等に掲載されたマンガ(連載中の作品を含む)、コンピュータや携帯情報端末等で閲覧可能なマンガ、同人誌等の自主制作のマンガ等

※プロ、アマチュアおよび自主制作作品、商業作品を問わず応募可

結果発表:
2022年3月(予定)

詳細:https://j-mediaarts.jp/contest/entry_guideline/

文:赤山恭子 写真:寺島由里佳 取材・編集:堀合俊博(JDN)

Comments (0)
Top