日常と非日常を融合させた、いまの時代を写したプロジェクト

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、多くの人が生活行動の大きな変化や大幅な自粛を余儀なくされた。なかでも演劇やライブなど文化芸術活動は会場となる劇場やライブハウスなどにおける「3密」の危険性が指摘され、仕事や表現の機会自体を失った人も少なくない。

そんな中、フォトグラファーの葛西亜理沙さん、南しずかさん、宮川舞子さんの3名がスタートさせたのが、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサーなどさまざまなジャンルの表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。本プロジェクトは、表現者たちが自宅や稽古場という“裏舞台で踊る姿”を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

ダンスホール・CHIAKIさんのカット(Photo:南しずか)

JDNでは、18組それぞれのカットとエピソードをまとめた連載コラムを6月からスタートする。連載開始にあたり、ポートレート、スポーツ、舞台と、普段はちがうジャンルで活躍する葛西さん、南さん、宮川さんの3名にプロジェクトがはじまったきっかけやコンセプト、コロナ禍での表現の機会などについてお話しいただいた。

――まずは普段みなさんが撮影しているジャンルなど、自己紹介をお願いします。

葛西亜理沙さん(以下、葛西):私は写真のジャンルで言うと、俳優やモデルのポートレートを中心に撮影しています。アシスタント時代に『AERA』の表紙を創刊から2016年まで撮影していた坂田栄一郎さんに師事していたこともあり、独立後もポートレートや広告などの写真を撮ることが多いです。あと旅雑誌や旅エッセイの連載など、旅にまつわる撮影や執筆も手がけています。

葛西亜理沙 青山学院女子短期大学英文科、サンフランシスコ州立大学芸術学部写真学科卒業。帰国後、写真家・坂田栄一郎氏に師事。2010年に独立し、ポートレート、旅、ファッション、コマーシャル、カタログなどの撮影を中心に幅広く活動。第63回朝日広告賞入賞。第16回上野彦馬賞「九州産業大学賞」受賞。

南しずかさん(以下、南):私は大リーグやゴルフ、たまに陸上などスポーツの写真を撮っています。もともとはお祭りが好きで、スペインのトマト祭りやインドのホーリー祭など世界各国のお祭りの写真を撮影していましたが、早い段階でこれだけで食べていくのは無理だなと気が付きまして……。それで10年くらい前からは、動きがあるものが好きということがあったので、スポーツ写真にシフトしていきました。最近はスポーツコラムなど、書くお仕事もさせていただいています。

南しずか 東海大学航空宇宙学科、International Center of Photography: フォトジャーナリズムおよびドキュメンタリー写真1カ年プログラムを卒業。フリーランスフォトグラファーとして、スポーツ、祭り、ライブコンサートを中心に撮影。写真撮影以外に「Sports Graphic Number Web」のゴルフのコラム、「Waggle」の米女子ゴルフツアーの連載に寄稿も行っている。

宮川舞子さん(以下、宮川):私は演劇やミュージカルなどの舞台写真を中心に仕事をしています。出身が日芸の写真学科で、卒業間際に演劇学科の友人から「卒業公演を撮ってほしい」と言われ、その時に舞台を撮ったのがきっかけでこちらの道に進もうと思いました。現在は舞台写真はもちろん、宣伝のためのチラシや出演者のインタビューもの、演劇雑誌の撮影などを手がけています。

宮川舞子 日本大学芸術学部写真学科卒業。舞台写真家・瀬戸秀美氏の専属アシスタントを経て、東京を拠点にフリーランスフォトグラファーとして活動中。演劇・ミュージカル・ダンス・ライブコンサート・フェスティバルを中心に撮影。日本舞台写真家協会会員。

――みなさんもともとご友人で、10年来のお付き合いだそうですね。

葛西:はい、それぞれ10年くらいの付き合いで、私と舞子さん(宮川)はしずかさん(南)を通じて知り合いました。しずかさんとは、私の師匠の坂田さんのところにしずかさんが作品を見せに来たことがきっかけですね。しずかさんは縦にも横にもつながりがあるイメージで、よくほかのフォトグラファーとつないでくれます。

宮川:私としーちゃん(南)は10年前くらいに雑誌の編集者さんを通じた食事会で知り合いました。3人で会うとよく機材の話などをしていますね。

南:私はほとんど海外にいることが多いので、帰ってきてご飯食べたい!というとみんなが集まってくれるすごくいいシステムがあるんです(笑)。みんなフリーランスだし、フォトグラファー仲間だと思っています。

日常と非日常を融合させた、いまの時代を写したプロジェクト

――「非日常を踊る」は2020年春に考え始めたプロジェクトだそうですが、みなさん自身はコロナ禍でどのような影響がありましたか?

葛西:ポートレートの撮影はどうしても被写体の方と対面になるため、2020年の4~5月はまったく撮影がなくなりました。旅の案件も落ち着いてからは国内シフトになりましたが、万全の対策をして行っています。

南:スポーツ写真って特殊なスケジュールの動き方で、基本的に年間単位で動くんです。特に2020年はオリンピックもスケジュールに入っていたけど1年分丸々仕事が飛んでしまい、一気に無職になりました(苦笑)。

宮川:コロナ以前は、年間でだいたい70本くらい舞台の撮影があったんですが、感染拡大した2020年の4~5月の自粛期間はそれがすべてパタッと止まってしまいました。

――かなり大打撃があったということですね。そんな中でプロジェクトをスタートさせた、きっかけについてお話いただけますか?

南:コロナでぽっかりと時間が空いてしまい、亜理沙(葛西)とZoom飲み会をしている時に、何か一緒にできるといいなと思ったことが最初です。私と亜理沙は「作品づくりがメインではない」という共通点があって、特に社会とのつながりを大事にしたい、何かしら社会貢献したいといつも考えていて。そんな2人でやれることはないかと探していたら、最終的には対象に当てはまらず申請ができなかったんですが、文化芸術活動の継続支援事業という補助金があることを知ったんです。

申請の対象者が文化芸術活動に携わっていることが条件にあり、もともとダンサーさんの知り合いや友人がいたので、プロのダンサーさんを被写体とする方向で進めていきました。それで、舞子さんは舞台関連のつながりがあるし「この人も巻き込んでしまおう!」と(笑)。

宮川:最初は巻き込まれたなーと思いました(笑)。でも企画の詳しい話を聞くと、もう自分がテーマの中にいるような気がしましたね。

葛西:当時コロナ禍で表現者の人たちの場所がなくなったことをニュースなどでよく目にして、舞子さんはお仕事でそれを目の当たりにしていましたし、しずかさんも表現者の友人がいたり、私も姉がインド舞踊をやっていたりと、身近なところで打撃を感じたので、職がなくなった同士でコラボレーションできたらいいなと思ったんです。

南:まずは知り合いのダンサーさんに連絡して、撮影のアイデアや当時の近況などについて意見を交わしました。そうしたら「コロナ禍になって自分の人生をすごく考えた」とみなさんおっしゃっていて、これってコロナ禍でしかできないことなのかな?とスタートしてから思ったんです。3人の写真のスタイルにそこまで差がなかったのも大きく、誰が撮ってもひとつのプロジェクトとして成り立ちそうだなと感じました。それから、ダンサーさんたちもジャンルが違うと意外とつながりがないんだということに気付いて、このプロジェクトを通じて新しいつながりができるといいなぁと。

――改めて、プロジェクトのコンセプトを教えてください。

南:コンセプトとして掲げたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つでした。

昨年の春以降、本来であればステージの上で踊っている人たちが場所と機会を失い、自宅や稽古場からオンラインレッスンなどを配信する方が続々と現れたんですが、配信された動画の背景には意図せず生活空間が写り込み、その人の人となりが感じられて魅力的に思ったんです。だから、このプロジェクトでは本来「裏舞台」である表現者のプライベートスペースで撮影を行うことで日常と非日常を融合させ、いまの時代を表現する写真が撮れたらと考えました。

ダンサー・長澤風海さん撮影時のメイキングカット

葛西:「1ジャンル1ダンサー」の撮影をすることに設定し、撮影場所は自粛期間にその人が最も活動した場所にしました。ご自宅の場合は家自体にその人の人となりが出ますが、公園や稽古場の場合はなるべくその人の私物を持ってきてもらって、その人らしさが写るようにしていました。

南:あと写真と動画の両方で撮影した上で、被写体の言葉も記録したかったのでインタビューも行いました。この事態に改めて感じたダンスや表現への思いなど、いましか出てこない感情を残したかったんです。

CHIAKIさん撮影時のメイキングカット

――このプロジェクトについて相談した際の、ダンサーさんたちの反応はどうでしたか?

葛西:表現をする場所を失っている方たちだったので、「こういう機会がないとフォトグラファーさんとコラボレーションしなかったかもしれないから嬉しい」、「表現の場を写真という形でやるのは自分たちにとって新しい」と言ってくださったり、たぶん新しいことにチャレンジしてみたいという人たちが協力してくれたんだなと思います。

南:コロナ禍で会ったこともないフォトグラファー3人が自宅に来ることを了承してくれたのはすごくありがたいなーと、いま振り返っても思います(苦笑)。

――被写体の方々の人選はどのように行ったんですか?

葛西:舞子さんの人脈がすごくて、ほとんどは舞子さんのつながりでした。俳優さんやドラァグクイーンのバビ江ノビッチさん、ポールダンサーさんもいたり。私が一番つながりがなかったので、「人が見つからない!」と舞子さんに泣きつきました(笑)。

スムーズに撮影を行うため、役割もツールも臨機応変に

――撮影がどのように進んだか、プロセスについてもお聞かせください。

南:スムーズに企画を進めるために、3人でフォトグラファー、ビデオ、インタビュー担当など臨機応変に役割を回しました。

葛西:1人目の撮影が2020年の7月にスタートして、1カ月に1~2人ずつくらいのスパンで進み、2021年の2月に最後の撮影が終わりました。3人それぞれが6カットを担当したんですが、基本的にはその日の撮影担当が中心になって準備や調整を行い、ほかの2人はそれをサポートする形でした。

宮川:インタビューはしーちゃんが全部担当してくれたので、インタビューしている間に私と亜理沙ちゃんで撮影の準備を終えるようにしていました。インタビューに関してはまったく手伝えなかったので申し訳なかったのですが……(苦笑)。

南:大丈夫大丈夫(笑)。補助金を申請できなかったこともあって被写体の方にギャラをお支払いできないので、今回はギャラのかわりに宣材写真やパフォーマンスしているところを撮ったりと物々交換的なお礼をさせてもらったんです。なので当日は、プロジェクトの撮影とインタビューを行いつつとスケジュール調整を進めました。

――ほかに撮影で特別に使ったツールなどはありますか?

葛西:今回、撮影場所がご自宅で特に一人暮らしの家や限られたスペースもあったので、三脚やライトなどを通常より小さいサイズのものでそろえて使ったんです。私たちは「令和セット」と呼んでいました(笑)。

(左)令和セット(右)平成セット。通常サイズの平成セットとくらべて、2分の1サイズの令和セット

葛西:このセットを2~3セット駆使して撮影していきました。ただでさえ3人いるし、それで機材も大きいと圧迫感がすごいから、なるべく被写体の方がリラックスできるようにと考えていましたね。

宮川:あと、行く先々の部屋のスペースやこういうライティングにしたいというときに、自分の機材で足りないものはお互いのものをシェアしたり。動画撮影はGoProを活用し、1分間被写体の方に踊ってもらい、撮影裏なども記録しました。

――いくつかの写真で機材が写り込んでいますが、これも意図しているんですよね。

宮川:舞台を演出するツールという意味合いでいくつかのカットに入れました。ステージをつくりあげるという意識だったと思いますが、ストロボなどが写り込んでいると非日常感をより演出できたかなと思います。

表現者×表現者だからこそ追求できた18カット

――撮影の中で印象的だったことはありますか?

南:アクション俳優・パルクールコーディネーターの真青ハヤテさんの撮影が印象に残っています。躍動感を表現するために「はったい粉」をかぶっていただいたんですが、写真を確認するたびに自分の跳び方や動き方、粉の撒き方を的確に調整していくのがすごかったんです。

アクション俳優・パルクールコーディネーターの真青ハヤテさんのカット。粉を使ったことで躍動感が伝わってくる1枚に(Photo:南しずか)

宮川:1回跳んでは亜理沙ちゃんが粉をかけにいってたね(笑)。千葉の公園で撮影して、撮影のあとはハヤテさんも手伝ってくれてみんなで粉の掃除も行いました。

南:そうそう。粉という小道具を使ったこともありますが、2人には跳ぶのにあわせてストロボを当ててもらったり、スポーツの撮影ではやったことのないカットでした。今回、プロジェクトを通して自分の中で“つながっていく”ということがポイントだったんですが、これまでつながりのなかった人たちと一緒につくっていけたことや、ちがうジャンルのフォトグラファーが協力して準備することなど、被写体とフォトグラファー1対1では成立しないカットばかりでした。

――宮川さんはどうですか?

宮川:2つほどあって、ひとつ目はバビ江さんの撮影の時に新宿二丁目の路地でセットを組んで準備していたんですが、自転車でおじさんが通りかかって、その方が「バビ江?バビ江ね!あなたは二丁目の宝よ、ほんと素晴らしいわ!」って大絶賛していったんです(笑)。

ドラァグクイーン・ショーガールのバビ江ノビッチさんのカット。バビ江さんのお店がある新宿二丁目での撮影となった(Photo:葛西亜理沙)

宮川:バビ江さんいわく、その方は二丁目のやり手のママさんらしいんですが、ちょうど二丁目の有名店がつぶれたっていうニュースが出たりと厳しい状況で、バビ江さんもそのママもお店をやっているけど「大変だけど頑張ろうね!」と言いながら去っていったんですよね。その2人のやりとりがすごくリアルでグッと来てしまって……。現場にいて感じるものがありました。もうひとつは、ミュージカル俳優の治田敦さんの撮影です。

南:治田さんのインタビューをしていたら、いろいろ思い出したのか舞子さんが泣いてしまって。18組を撮る中でフォトグラファーが泣いたのはその時だけだったので私もよく覚えています(笑)。

ミュージカル俳優・治田敦さんのカット。自宅での撮影で、愛猫も一緒に映っています(Photo:宮川舞子)

宮川:治田さんがご出演された舞台の稽古場の撮影を私が担当していたんですが、徹底した厳戒態勢のなかで、無事舞台が終わったと聞いてホッとしましたし、それは、会場でのお客様自身の感染対策も含めて、はじめてのさまざまなことにきちんと対応していった結果だと思うと、感極まってしまいました……。

南:治田さんはインタビュー中に発声練習の仕方を教えてくれたりと、すごくサービス精神のある方でしたね。

――葛西さんはどうですか?

葛西:全体を通した話ですが、被写体のみなさんから、撮られる側だけど一緒につくるという雰囲気をひしひし感じたことが印象に残っています。たとえばポールダンサーのyamadoriさんは「家にポールを設置できますか?」とお聞きしたら、「やったことないけどやってみますね!」とポールの高さを調べてくれたり。

ポールダンサーのyamadoriさんのカット。ポールの土台は分解してみんなで協力して運び込んだそう(Photo:葛西亜理沙)

葛西:人によっては面倒に思うようなことも、「面白いですね!」とみなさん言ってくれて、どんどん向こうからも「こういうポーズどうですか?」「衣装はこれでどうですか?」と提案をしてくれて、撮ってもらうスタンスではなく、やっぱり表現者なんだなと感じました。

南:本来だったらステージ上でしか見られない人たちが目の前で踊ってくれる、特等席で見られたことはすごく贅沢でありがたい時間でしたね。

オンラインが普及したからこそ、リアルが待ち遠しい

――まだ現在も厳しい状況は続いていますが、プロジェクトを経たことでオン/オフにおける表現の機会をどう思いますか?

葛西:これまで公演に行かないと見られなかった世界中のダンサーの表現をオンラインで見れるようになったり、旅関係でいうとオンラインツアーができるようになったりしたことは、新しくてすごくいいことだと思うんです。でも、ダンサーさんが目の前で踊っているのを撮っているときに、ふわってスカートが揺れて風がきたり、息づかいを目の前で感じたり、そういうことはオンラインでは伝わらないし、オンラインでつながりやすくなったからこそリアルにできる大切さを実感したり、リアリティをもっと待ち遠しく思うところはあるなと思います。

宮川:少し話がそれてしまいますが、先日ラジオでアメリカの大手IT企業のリモートワーク状況について、今後は基本出社になったところがあると言っていたんですね。生身で顔を合わせた方がいいアイデアが生まれることが理由らしいんですが、まわりの友人はリモートワークになった人が多いし、引っ越しした人もいたりとリモート中心の人がいる一方で、やっぱり顔を合わせることに価値を置いている人たちも出てきているんだなと感じます。舞台のことでいうともともと生の世界なので、Zoom演劇や新しい表現が生まれているのはいいことだなと思いつつ、従来のように全快の状態で舞台を見たいなと強く思っています。

南:途中でも話したんですが、人とつながっていくということが一つ自分の中でやりたかったことで、写真を撮るって英語で「take a picture」って「take」が使われていて、何かを「取る」ということなんですよね。でも私は個人的に「give and take」で世の中は成り立っていると思っていて、いま写真を撮る「take」の部分は終わったので、今度は「give」をやっていきたいんです。

「give」のひとつとして写真展をやりたいねと3人で話していて、今回関わってくださった表現者の人たちと展覧会を見にきてくださった方がつながったり、あと表現者の人たち同士がつながっていったり。まだコロナ禍でスケジュールは未定ですが、しっかりつながることをやっていきたいなと思いますね。

撮影:葛西亜理沙、南しずか、宮川舞子 取材・文・編集:石田織座(JDN)

●葛西亜理沙
https://www.arisakasai.com/
●南しずか
https://www.minamishizuka.com/
●宮川舞子
https://soaring-photo.com/

Comments (0)
Top