コロナ禍だからこそ形にしたかった「母からの仕送りシール」

東京ミッドタウンが主催するコンペティションとして、2008年より開催している「TOKYO MIDTOWN AWARD(以下、TMA)」。39歳以下を応募対象に、デザインコンペとアートコンペの2部門で作品案を募り、これまでに約180組のデザイナー・アーティストを顕彰してきた同コンペティションが、今年も「TOKYO MIDTOWN AWARD 2021」として開催される。

TMAでは、「歌舞伎フェイスパック」や「okokoro tape」、「ゲタサンダル」など、デザイナーとメーカーとの協働を通して、デザインコンペ受賞作の商品化を継続的に実施し、これまで18作品を世の中に商品として送り出している。そのうちの一つ、昨年商品化された、2017年の準グランプリ作品「母からの仕送りシール」について、デザイナーの山中桃子さんと、メーカーとして商品化開発に携わったカモ井加工紙株式会社執行役員営業部部長の高塚新さんに、同商品の開発プロセスをうかがった。

「母からの仕送りシール」

コロナ禍だからこそ形にしたかった「母からの仕送りシール」

––おふたりのこれまでのご経歴と、現在のおもなお仕事について教えてください。

山中桃子さん(以下、山中): アニメやカルチャー系のデザイン事務所、本の装丁をメインに行うエディトリアル事務所を経て、現在は岡本健デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして5年ほど仕事をしています。入社当時はロゴやポスターなど平面的なデザインを手がけることが多かったのですが、いまは地方のブランディングや空間のサイン計画に携わったり、仕事の幅は広くなっています。ブランドのコンセプト立案からお手伝いさせてもらえる機会も増えてきました。

山中桃子 グラフィックデザイナー 1991年神奈川県生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、数社のデザイン事務所を経て2015年より岡本健デザイン事務所に所属。伊勢丹の新包装紙「radiance」や、京都の寺院で毎年開催される「京焼今展」のメインビジュアルなどを担当。個人で制作した「母からの仕送りシール」がTokyo Midtown Award 2017で準グランプリを受賞。2020年12月に同作品の商品化が決定。

最近では、伊勢丹の包装紙のリニューアルに携わらせていただきました。目にする方がとても多い仕事だったので、たくさん反響をいただきました。また、副業にも寛容な事務所なので、個人の仕事をいただいたりもしています。

高塚新さん(以下、高塚):カモ井加工紙株式会社は、もともと天井からぶら下げる茶色いハエトリリボンの製造からスタートして、今年で創業98年です。そこから、紙と粘着の技術を生かして、工業用マスキングテープを開発し、2008年には文具向けのマスキングテープ「mt」が誕生しました。私は現在「mt」の営業や販売、広報企画、ブランディングなどを担当しています。

マスキングテープ「mt」

––今回、東京ミッドタウンと山中さん、カモ井さんの協働で、山中さんの2017年の受賞作「母からの仕送りシール」の商品開発が行われたとのことですが、山中さんが当時TMAに応募したきっかけなどについて教えてください。

山中:私が応募した2017年のデザインコンペのテーマは、「TOKYO」でした。TMAは以前から知っていたのですが、コンペに自ら応募してみようと思ったのは、この年が初めてでした。

当時、ちょうど東京で一人暮らしを始めて2年が経ち、少しずつ慣れてきて仕事も充実してきた頃で。実家は神奈川県なので東京からは近いのですが、毎日が慌ただしく、なかなか実家に帰れませんでした。そんなとき、母から仕送りやメッセージが届いたんです。「最近元気にしているの?なにを食べているの?」というような、他愛ない言葉だったのですが、その言葉の重みが、実家にいた時とは違って感じられました。

2017年の受賞時のプレゼンテーションシート

山中: 地方から上京した人ほど、東京ってやっぱり完全には自分に馴染んでいない部分があると思うんです。毎日頑張って働きながらも、ふと心細くなってしまったり。なので、実家にいたときにはちょっと口うるさく感じた言葉も、離れた途端に「染みるなあ」って(笑)。そんな自分の気持ちの変化がおもしろいなと感じました。

一方で、地方で暮らす家族は、子どものことが気になるけれど、頻繁に連絡はしづらいなと感じていると思うんです。だからこそ、仕送りなどにさりげなくメッセージを添えて届けるくらいがちょうどいいのかなと。「母からの仕送りシール」は、そんな気づきが重なって生まれたアイデアでした。

––2017年の受賞作の商品化がスタートするにあたって、どのような経緯があったのでしょうか?

山中:昨年から、コロナ禍で仕事はリモートワークに切り替えていたのですが、人とコミュニケーションを取らない期間が長く続き、ゴールデンウィーク頃に「これはいつ終わるんだろう」と不安な気持ちが強くなってしまって。そんな時にニュースで、帰省できない人や支援物資を送っている人たちの姿を目にして、3年前に作った仕送りシールを、いまこそ形にすべきではないかと思い立ったんです。そこで、東京ミッドタウンのアワード担当の方に、「こういう時だからこそ一緒に作りませんか」と、直接相談したのがきっかけでした。

手仕事感と引っかかりを残した、デザインのブラッシュアップ

商品化前のシールのデザイン

––商品化にあたって、受賞時のデザインなどを見直されたとのことですが、まずはどのようなことからはじめましたか?

山中:まずはシールの文言を見直しました。受賞時とは社会状況も変わっていたので、伝えたい言葉のニュアンスも変わると感じたからです。無事を伝える「心配無用」や、配達業者さんへのメッセージとしての「配達感謝」は、今回新たに伝えたいと思い追加したものです。

また、応募時のデザインは既存のケアマークシールに寄せて作っていて、よい意味でのチープさを生かしたつもりだったのですが、審査員の方からの審査講評で、シールのデザインのクオリティがあまり高くないというご意見をいただきました。当時はチープさと手数のバランスがまだ未熟で、ただ野暮ったくなってしまっていたと思うので、今回は細部の形状の質を丁寧に高めていきました。

––具体的にブラッシュアップされたポイントについて聞かせてください。

山中:もともとのケアマークらしさを残しつつ、自分の個人的な好みや手癖を極限まで排除してデザインしていきました。それでも、ちょっと目に引っかかるというか、誰が見てもわかりやすい形だけれど見落とされすぎないように、絶妙なところで最後にフックを残すように意識しました。

当時のラフスケッチ

山中: たとえば、当初はトーン感がバラバラで線画と塗りが混在していましたが、ベースは基本的に白抜きで線画を少なく、要素を減らすことでごちゃごちゃしないように整理していきました。あとは、普遍的な電話のマークはあえて形状を平らにしてみたり、指先の形に特徴をつけるなど、ほんのりヘンテコな要素を取り入れました。「心配無用」の筋肉やお餅も普通にアイコン化するともう少し規則的なタッチになりますが、手仕事感を残すため、少しだけゆがんだカーブをつけました。

ブラッシュアップ時のスケッチ案。「わるもの」のシールの一案として「泥棒」をイラスト化するアイデアもあったのだそう。

次ページ:パッケージからディスプレイまで、デザインを形にするカモ井加工紙の技術

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