チームで共通していた、eスポーツに対する課題感と目標

新しいスポーツの形として大きな注目を集めている「eスポーツ」。コンピューターゲームやビデオゲームを用いた対戦をスポーツ競技として捉えたもので、近い将来にオリンピック種目となることも期待されている。

そんな機運の中、2020年1月31日にNTT東日本グループでは、eスポーツ事業に特化した会社「NTTe-Sports」を設立。同年8月には、NTTe-Sportsの施設事業のシンボルとなる「eXeField Akiba(エグゼフィールドアキバ)」が、秋葉原UDX内にオープンした。eスポーツを楽しむ場でありながら、さまざまな体験やコミュニケーションを創出する、今までにないコンセプトでつくられた施設だという。

eXeField Akiba 内観

施設内には、プレイエリアや配信エリア、ICTエリア、フードエリアがある。eスポーツはもちろん、イベントやオンラインセミナーでの活用など、最先端のICT技術を体験できる場となっている。この空間づくりのキーメンバーとなったのが、NTTe-Sportsの影澤潤一さん、梓設計の岩瀬功樹さん、丹青社の山下純さんの3名。彼らに「eXeField Akiba」が持つ役割やプレイヤー目線で考えた空間の工夫、今後のeスポーツ施設事業の展開などを伺った。

チームで共通していた、eスポーツに対する課題感と目標

——はじめに、みなさんが普段、どんな仕事に関わっているのか教えてください。

影澤潤一(以下、影澤):私はNTTe-Sportsで代表取締役副社長を務めています。会社ではeスポーツ施設の運営や提案、イベント事業やeスポーツを使った地域活性化のためのコンサルティングなどを行っています。

影澤潤一 NTTe-Sports代表取締役副社長。2004年に筑波大学大学院理工学研究科を修了し、NTT東日本に入社。20年以上前から、仕事の傍ら格闘ゲームを中心としたコミュニティイベントの企画などを手がけてきた。その実績から、NTT東日本のeスポーツ事業立ち上げのプロジェクトリーダーに就任。NTTe-Sports設立と同時に現職。

岩瀬功樹(以下、岩瀬):私は、梓設計のアーキテクト部門に所属しています。スポーツ・エンターテインメントドメインというチームで、おもにスタジアムやアリーナのデザイン・設計に携わっています。私もゲーム世代だったので、eスポーツやその施設については前から関心がありました。

山下純(以下、山下):丹青社デザインセンターのカルチャー&コミュニケーションデザイン局という部署で、クリエイティブディレクターを務めています。エンターテインメント施設や企業ショールームなど幅広く空間デザインを手がける中で、eスポーツ関連の大会や常設空間、バーチャル空間のデザインにも携わってきました。

——この3名がチームになった経緯を教えてください。

影澤:もともと私がゲーム好きで、中学生くらいから格闘ゲーム系のプレイヤーだったのですが、大学に入ってからは大会を開いたり大会の模様を動画にして配信したりしていました。社会人になってからもゲームのコミュニティの活動を趣味でやっていました。NTT東日本グループがeスポーツを事業化することを掲げた頃、会社に私のこれまでの実績がわかってしまい(笑)、仕事としても本格的に携わるようになりました。その中で何度かNTTがeスポーツにどう関わっていくかを講演させていただく機会があったんです。

岩瀬:私はeスポーツの施設について自主的に調べていく中で、たまたま影澤さんの講演を聴講したことがあり、その時に「eスポーツに対する考え方が一緒だ!」と思ったんです。小さい頃から私もプレイヤーとしてeスポーツを楽しんでいて、面白さを多くの方と共有したいなと思っていました。でも「eスポーツ」という言葉は広まっているものの、日本ではまだ文化として定着しておらず、ビジネスとしても成り立っているとはいえない状況でした。

岩瀬功樹 株式会社梓設計/アーキテクト部門 BASE03。一級建築士。立命館大学大学院卒業後、2015年に株式会社梓設計入社。大学、図書館、スポーツ・エンタメ・eスポーツ施設、オフィス等幅広い設計プロジェクトに参加する。

岩瀬:その講演で影澤さんは、「ジャンルとしてまだ固定化されていないから、もっと柔軟になれる」など、eスポーツのすそ野を広げるための本質的な打開策を語っていらっしゃったんです。eスポーツをプレイヤーの視点でも捉えていることにも共感を覚えました。そして、その講演で影澤さんに「eスポーツの施設をつくるとしたら、どのような機能が必要になりますか?」と質問をしたんです。

影澤:フィジカルスポーツに携わっている人たちが会場の大半を占める中、岩瀬さんがめげずに挙手をしてくれて(笑)。方向性や課題感が近かったことから意気投合し、いろいろ話していくなかで、一緒に講演を行うような機会もありました。

——以前からお知り合いだったのですね。山下さんはどのようにお二人と出会われたのでしょうか?

山下純 丹青社 デザインセンター カルチャー&コミュニケーションデザイン局所属。空間というリアルな場を訪れる人の「体験」に主軸を置いたデザインを考える。エンターテインメント、e-Sports関連イベント・常設店、企業ショールームなど、多分野において求められる「体験」にデザインの力で解決策を提案し、実現している。

山下:当社のデザイナーから岩瀬さんを紹介してもらったのが最初です。それまでにもeスポーツに関わる空間デザインの経験はありましたが、eスポーツは建築やデザインの分野ではまさに発展中であるはずなのに、施設としてつくられるものになんとなく型ができてしまっているということに少し疑問を感じていました。もちろん、多くの方が抱いているeスポーツのイメージを踏襲するビジネス視点も大切です。でもそれより、いかにコミュニティの方々に楽しんでもらえるかが、eスポーツの施設に求められることではないか?と思っていたんです。

岩瀬:はじめて山下さんとお会いした時にそういったお話を聞くことができ、同じような悩みや疑問を共有することができたんです。NTTe-Sportsさんから施設のコンペのお話を伺った時は、ぜひ一緒にということで山下さんにお声かけしました。

——「eXeField Akiba」の企画発足が2020年2月、完成とオープンが同年8月というとてもタイトな進行だったとお聞きしています。早い段階から3人ともeスポーツに対する課題を共有できていたことも、短いスパンの中で完成できた要因のひとつでしょうか?

影澤:それは大いにあると思います。「一般的」とされるeスポーツ施設は、「暗くて閉鎖的な場所」という印象を抱かれがちでした。そのイメージが固定化されつつあることは問題であり、本来はもっと自由で、間口が広くあるべきだという想いが一緒だったので、志を同じくして進んでいくことができたんだと思います。

eXeField Akiba 外観。壁がガラス張りのため、共用部から中の様子がわかりやすい。

入口すぐの受付・物販エリア。白を基調にした空間デザインになっている。

岩瀬:例えば、「eXeField Akiba」の全体の色味のトーンは、モノクロを基調にした明るめの色です。壁の一面もガラス張りにして、開放感を持たせています。これには狙いがあり、この空間に足を踏み入れた方だけでなく、共用部を歩いている人に興味を持ってもらったり、気軽に足を踏み入れられると感じていただける空間を目指しました。

山下:一方的に「eスポーツとはこういうもの」と示すのではなく、関わる方が自由に解釈し、交流して、コミュニティが広がっていく空間。つまり、訪れるすべての方が楽しむことができ、その体験を共有し、伝えることですそ野が広がっていくのが理想だと思っています。そういったことが叶う施設をつくりたいという考えが、3人とも一致していましたね。

eスポーツにとどまらない、フレキシブルな空間

——お話の中で「楽しむ」「伝える」「広げる」という3つのキーワードが出てきました。それぞれの観点で、施設の特徴を教えてください。

影澤:まず、ゲームを「楽しむ」こと、プレイするための環境が大切なのは当然ですが、さらに重要なのが、見て「楽しむ」ための、施設の一面にある大型スクリーンです。eスポーツでは、ゲーム画面とプレイヤーを写す画面の、最低2画面がひとつの画面に収まるように配信画面の設計が行われます。一般的な画面のアスペクト比は16:9なので、かなりたくさんの画面や情報を詰め込む必要があるんですよね。インターネットで動画配信として見るのであればそれでいいかもしれません。ただ、せっかくこういった場所に来てくれたからには特別な体験をしてもらいたい。なので、「eXeField Akiba」のパネルの比率は横長の設計になっています。

一般的なアスペクト比より横長の大型スクリーン

影澤:例えば、パネルの真ん中にプレイ画面を映して両サイドに選手の顔を映すというレイアウトは、横長の画面でないとできませんよね。それぞれの画面が見やすく、独立してピュアな情報で見ていただけるようになりました。

山下:会場に来て楽しむという意味では、ゲームを見るだけでなく、五感で楽しむことも外せません。施設内のカフェエリアでドリンクとフードを購入し、飲食を楽しみながら観戦することもできます。五感でeスポーツを体験し楽しんでもらうことで、「eXeField Akiba」に来たことを思い出に刻んでいただきたい。そして、「また来たい」と感じてくれる方が一人でも増えたら、コミュニティの輪を広げていく可能性が生まれるのではないかと思います。

カフェエリアが設置され、飲食も楽しみながら滞在することができる。

——eスポーツでは、配信を通じて「伝える」ということも重要な要素ですよね。

影澤:はい。実は、プロジェクト開始当初はプレイエリアを限界まで広げ、たくさんの方が遊びに来られる場所を想定していたんです。しかし、プロジェクトの途中でコロナ禍となってしまい、人が集まることが難しくなってしまいました。そこで、これからは配信がメインになるだろうと考え、方針を大きく変えたんです。ここでイベントをしつつ、それを積極的に配信していく。さらには各地とつないで対戦ができる、といった配信設備を整えました。

岩瀬:配信エリアやそこで行われているオペレーションにも注目してほしいですね。あのエリアは「PA卓」と呼ばれていて、通常はあまり表から見えない位置にレイアウトすることが多いんです。でも今回はPA卓もeスポーツの見どころの一つとして前面に出したかったんです。ほかのスポーツもそうですが、プレイヤー以外にもその競技を支えているスタッフや関係者はたくさんいて、そういったものをすべて見せるショールームのようになればと考えました。将来eスポーツに関わりたいと考えている人にとっても、「伝える」ためのオペレーションが見れることは魅力的だと思うんです。

ほかの施設では表に出ることが少ない「PA卓」も前面に出している。

影澤:ちなみに私は、このエリアのことを「コックピット」と名付けています(笑)。あとPA卓のほかに見せることが少ないサーバーも入口近くに出してしまいました。自分で言うのも変ですが、あれは英断だったと思いますね。

岩瀬:ショールームの役割として、ある意味、配線とかバックヤードも見せなければいけないということがあるじゃないですか。そういう部分もちゃんとディスプレイしようと方針に入れたことは、建築的にも面白かったなと思っています。

山下:オープニングイベントでは、バーチャル空間と連動した施設紹介も実施しました。デジタルツインによって、実際に現地に来られない方にもVRコンテンツとして施設そのものを伝えることができたのも、この施設における可能性のひとつを表せたと思います。

オープニングイベントで披露された、eXeField Akibaのバーチャル空間

——それでは、「広げる」というテーマではいかがでしょう。

山下:「eXeField Akiba」は、最新のICT技術が結集している場所なので、eスポーツだけでなく、リモートワーク、授業、セミナーなど多岐にわたる用途の可能性が生まれます。そういう点で、ここは「eスポーツ“も”できるフレキシブルな施設」と捉えることができます。

――eスポーツ“が”できる場所ではなく、eスポーツ“も”できる場所なのですね。

山下:はい。特徴の一つとして、体験型のショールームとして活用することもできるんです。通常、物的支援をしてくださっているメーカーは「モノ」を納品して終わりだったかもしれません。でもここではeスポーツというジャンルを超え、さまざまなメーカーの開発する商材や新製品を持ち込み、実際のユーザーに体験していただいて声を聞くという流れを生み出せるようになっています。

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