街に開かれた、新しい「和光」へ。空間づくりで進化する銀座のシンボル(2)

丹青社, 和光,建築

2 17:18

訪れた人の心の奥深くに響く、手間を可視化するデザイン

──和光のアイデンティティーとも言える時計を扱う1階の「和光ウオッチスクエア」では、ショーケースの木目や柱のタイルにも目を奪われます。

上垣内:和光さんは長い歴史の中で培ってこられたものが圧倒的なので、その器となるための表現や手法、さらに具体的なデザインにたどり着くまでには時間を要しました。近年のデザインや建築は、テクノロジーにより可能となった造形力に秀でたものが多いですが、そうしたものとは一線を画すような和光らしさがあり、かつ現代的な空間にしたい。そのためにはどうしたらいいかと考えて、マテリアルにこだわり、手間を可視化した空間にしようと考えていきました。

1階のショーケースに用いた突板(つきいた)は、専門の職人が世界中から探し出した木を、特殊な技術で剥ぎ合わせて一枚の板にしたものです。

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大阪が拠点のYASUTAによる、天然木化粧合板。木を薄くスライスした突板を基材に貼り付けて意匠素材とする手法が用いられている。実際に突板の年輪や木目を見ると、一言では表しづらい歴史の蓄積のような重厚感を感じる。

また、柱には美濃焼にインスパイアされたタイルを特注して使用しています。3種類の反り、3種類の色があるタイル1枚ずつに番号を振って色と反りと角度を決め、そのとおりに現場で配置しました。気が遠くなるような作業を担当してくれた監理者と職人さんのおかげで、自然物のような有機的な造形で、季節や見る角度によって異なる複雑な光の反射が生まれ、時の移ろいを感じることができる仕上がりになりました。

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400年の歴史を持つ美濃焼(桃山陶)の伝統を受け継いだ、窯元「虔山」によるタイルが柱にあしらわれている。

私自身、ここまで複雑かつ手間をかけた内装を手がけることはあまり多くありません。そうして可視化された手間に、訪れた方がぐっと心をつかまれるような表現にしたいと考えました。

──中でも特に苦労されたのは、どんなところでしょうか?

上垣内:1階のショーケースのガラスは、あの長さでカーブを正確に出すことがとても難しかったですね。フレームがなく幅木の上で自立しているので、ガラスを構造として機能させないといけませんでした。その精度を高めることに、かなり時間をかけました。

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調整の末に精度の高いカーブを生み出したショーケースのガラス。

武蔵:ショーケースのガラスは難問でしたね。設置してからも、接着の仕方に調整が必要だったり、現場の方には頑張っていただきました。

上垣内:あのとき「挑戦してみよう」という気持ちが一枚岩にならなかったら、実現していなかったかもしれません。そういう意味では、設計者として、丹青社の制作部門の技術力とチャレンジ精神も賞賛したいと思います。

──2020年6月に和光本館のそば、ガラス灯通り沿いにオープンした「和光ブライダルブティックギンザ」も、素材が際立つ空間になっています。ここも上垣内さんが手がけられたそうですね。

上垣内:「和光ブライダルブティックギンザ」は、本館とくらべるとお客さまの年齢層が低く、女性が主役のお店です。石井社長からも「本館ではできない、新しい試みがあってもいいのでは」というお話があったことから、外観は陰影の出る白い菱形のタイルで全面を覆い貼り、コンテンポラリーな輝きをイメージした芸術を感じさせるファサードとしました。

一方で内部はヒューマンスケールのアーチを描き、安心感と豪華さを、また、そのアーチに沿うように大理石の模様を本館の突板のように剥ぎ合わせることで、自然がつくる華やかさを表現しています。

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和光ブライダルブティックギンザ 外観

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和光ブライダルブティックギンザ 内観

大理石といってもセラミックタイルなので厳密には自然素材ではありませんが、訪れた方には石の壁のように見えるよう、貼り方や目地の突き合せ方、小口の処理などに配慮しています。自然素材を用いた華やかさという面で、本館のインテリアとのつながりを感じてもらえるデザインにしました。

武蔵:和光のDNAを継承しながらも、軽やかで現代性のある空間になりましたね。

リアルな体験価値のある空間をつくる

──オンラインが台頭する時代に、「リアルな場」づくりにどのように向き合われているのでしょうか。

上垣内:この先、コロナだけでなく、いろんな変化に対応しなければいけない時代になることを考えると、オンラインの活用は不可欠です。そうするとリアルの場は、淘汰されるか、より重きを置かれるかのどちらかに二極化していくでしょう。

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上垣内:たとえば、今までは気軽に友達と会えたけれど、今は、場所をどうするかなど、あらかじめいろいろ考えて準備しないといけない。そうすると、誰かと会う場所が、その体験にふさわしい空間でないと選ばれなくなっていきます。そこでしかできない、リアルな体験価値のある空間をどう提供できるかは、僕らが今後、突き詰めていかなければいけないテーマです。

武蔵:私たちにとっても、デジタルとの融合は大きな課題です。一方で和光は時計、つまり「時」を扱う会社です。また、和光のショーウインドウは、表現によって空気が変わる街の床の間のような場所で、しかもそれが街の人たちの記憶ともどこかで重なっています。

ある日本映画で、主人公が昔のことを思い出す場面になると、その時代時代の和光のショーウインドウが映し出される、という作品がありました。映画の中で、「時」をあらわすものとしてショーウインドウを取り上げていただいたわけです。つまり、こうした空間が確かにあったと記録し、積み重ねていくことも、「時」をつくる作業とも言えます。そのように「時」を扱い、空間をつくっている者として、リアルな場にこだわるのは、当たり前のことなのかなと思っています。

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新しい表現に挑戦し、進化を続けていく

──リニューアルを契機に生まれる新しい表現もありそうです。今後の展望についてお聞かせください。

武蔵:とにかく、今までできなかったことをやりたいと思ってます。社長の石井からも、「それが我々の進化だ」と言われています。

上垣内:ちなみに海外には、表からも裏からも見られるショーウインドウってあるんですか?

武蔵:シースルーはありますが、そういった店舗には店内に何もなくて表裏がはっきりしていることが多く、和光のようにどちらも表として展開しているケースはレアだと思います。ただシースルーには、ネガティブな面もあります。たとえば、僕らにとって色はとても大事なもので、壁があった時には背景の色を変えるだけで印象を変えることができたし、実際に色が通りに伸びることで、銀座の風景も変えることができました。しかし背景がなくなることで、その大きな特徴を失ってしまったわけです。

上垣内:そこはすごく難しいところですよね……。でも、クリエイターにとっては新しく、大きなチャレンジになるような気もします。

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武蔵さんがアートディレクションを手がけたショーウインドウ「悠」(展示期間:2020年11月5日~12月25日)

武蔵:たしかに、「美術館やギャラリーとは一線を画する環境だ」と興味を持ってくださるアーティストの方もいらっしゃいます。たとえば店内側にだけディスプレイをしてウインドウでは何もしないとか、店内に入らないと何も見えない、といった企画もできるかもしれませんね。

上垣内:それは見たくなりますね。今、僕もひとつアイデアが浮かんだので、今度プレゼンさせてください。なんだか燃えてきました(笑)。

武蔵:ぜひお願いします(笑)。ショーウインドウだけでなく、おもてなしの空間としても、また建物のポテンシャルをあげるためにも、まだまだできることはあるはずです。今回のリニューアルで新たに気がついたこともあったので、あらゆるところを進化させていきたいと思っています。

上垣内:街の情報を伝える報道番組でも、カメラがターンすると和光さんの時計塔が映りますよね。日本中どこに住んでいる人でも、時計塔を知らない人はいないくらい、あの建物は銀座の象徴になっている。それと同じくらい、和光さんの内部空間も知ってもらえるようになったら嬉しいですね。

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和光
https://www.wako.co.jp/
丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/

【関連記事】“時と時計”の歴史を通じ、企業文化を発信する「セイコーミュージアム 銀座」
https://www.japandesign.ne.jp/interview/tanseisha-seikomuseum-01/

文:矢部智子 撮影:葛西亜理沙 取材・編集:石田織座(JDN)
施設写真撮影:株式会社 ナカサアンドパートナーズ

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