展示の高揚感を内外に伝える-「D&DEPARTMENT TOYAMA」のウィンドウ:CSデザイン賞受賞者インタビュー

D&DEPARTMENT, CSデザイン賞, 宮田裕美詠,建築

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単色やメタリック、蛍光、透明など、全273色の豊富なバリエーションをもつ装飾用シート「カッティングシート®︎(以下、カッティングシート)」。素材を自由に切り貼りでき、容易にはがすこともできるため、ウィンドウディスプレイや展示会、サインの装飾など、多くのクリエイターの創作現場で支持されてきました。

「CSデザイン賞」は、このカッティングシートを活用した優れたデザインを発信・共有するためのアワードとして、今年で21回目を迎えました。本記事では、「第21回CSデザイン賞」一般部門グランプリ受賞者のコメントを通して、カッティングシートが持つ魅力や可能性などについてお伝えします。

1960年代に開発された「カッティングシート」は、1980年代にコーポレート・アイデンティティ(CI)ブームなどの影響を受けて飛躍的に普及した素材です。開発元の中川ケミカルは、素材が普及した一方で、街の景観と素材の関係性に危惧を感じ、適切で創造性に優れたデザインを社会で共有するための活動が必要だと考え、1982年にCSデザイン賞を創設しました。

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東京・東日本橋にある「CSデザインセンター」では、中川ケミカルが提供する約800種の装飾用シート製品を自由に見ることができます。

第1回開催から、多くのデザイナーや建築家が作品を応募してきた同賞。一般部門と学生部門に分かれており、今回一般部門でグランプリを受賞したのは、富山県で活動するグラフィックデザイナーの宮田裕美詠さんによる「D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERY」のウィンドウデザインです。

展示場所となった「D&DEPARTMENT TOYAMA」は、伝統工芸品を扱うショップや地元の食材を使ったレストラン、ギャラリーなどからなる施設。ギャラリーで開催される企画展に合わせた、告知のためのウィンドウデザインが受賞作品となりました。審査員からは、「ギャラリーのガラス面を表現力の高いグラフィックによって、魅力的な空間へと変化させた」という点が特に評価されました。

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「100のそろり展」(展示期間:2018年5月10日〜7月8日)

受賞者である宮田さんに、作品への思いやカッティングシートの魅力、今後の展望などについて伺いました。

受賞作品は“簡略化した記号”としてのウィンドウデザイン

――まずは、宮田さんがこれまでに手がけてきたお仕事や、作品を教えてください。

宮田裕美詠さん(以下、宮田):普段は、企業のブランディングや美術館の展覧会告知に関するツール、商品パッケージやウェブサイトなど、おもに私の地元でもある富山に関連した媒体のグラフィックを細々と手がけています。

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「STROOG」ポスター。木造建築の強度を高めるための技術・製品・サービスを提供する企業のVIを宮田さんが担当し、マークやロゴをはじめ、Webサイト、PV、ポスターなどを手がけました。

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「うしとうそ」D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYの依頼で企画したという、とやまの土人形の展示。告知物のデザインから書籍の制作、展示の構成やオリジナル作品の制作など、展示に関わることほぼすべてを行ったそうです。

――今回CSデザイン賞の一般部門でグランプリを受賞された作品「D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERY」について教えてください。

宮田:受賞した作品は、「ロングライフデザイン」がテーマのショップに隣接した、ギャラリーの企画展にあわせたウィンドウのデザインです。2015年のオープン時から担当している仕事で、ウィンドウデザインのほか、企画展のポスターやDMなどもデザインしています。今回はCSデザイン賞の対象期間分を応募しました。

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D&DEPARTMENT TOYAMA 外観

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D&DEPARTMENT TOYAMA ショップ内観

――作品を制作する上でのコンセプトや特に注意していることを教えてください。

宮田:このウィンドウは駅前の県道に面していて車の往来が多い場所にあるため、詳細情報は紙媒体やWebサイトで紹介し、ウィンドウでは「展示が変わった」ということのみを伝えることを最優先に、メインビジュアルを簡略化した記号としてデザインしています。

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宮田裕美詠 富山県出身・在住。有限会社クロスを経て、2002年よりフリーランス。おもな企画展の参加に、「TAKEO PAPER SHOW 2014『SUBTLE』」(主催:竹尾/企画:原研哉)、「8人の女たち」(クリエイションギャラリーG8)、「NIPPONの47人 2015 GRAPHIC DESIGN」(企画:ナガオカケンメイ、D&DEPARTMENT PROJECT)、「エアラス・性能と品質」のグラフィックトライアル(主催:特種東海製紙/企画:廣村正彰)など。

印刷では、ディテールの再現やインクの盛り、用紙の風合いなどの効果を期待していますが、ウィンドウでは遠くから、また、一瞬しか見られないことを意識しています。目に入った瞬間に、「デザインが変わった」ことの認識さえしてもらえれば、潜在的に「あの場所で何かしているんだな」と感じてもらえていると思うので。できれば「なんの展示だろう?」「詳細はわかないけれど、おもしろうそうだな」とまで感じてくれる人がいたら、尚いいなと思っています。

――作品はどのようなプロセスを経てつくられるのでしょうか。

宮田:最初に、展示内容やコンセプトに合わせてポスターをデザインしています。ポスターのデザイン案が通ったら、ウィンドウのデザインへ展開していくという流れです。カッティングシートに落とし込む際には、ポスターのデザインをさらに簡略化するので、その転換作業が楽しい部分でもあり、いちばん工夫が必要な部分でもあります。

たとえば、「民藝の再発見 -柳宗悦の美学を導いた南砺の土徳-」のデザインは、展示の企画書にあった言葉をキービジュアルにしました。展示への想いや、企画の魅力が強く現れていることに魅力を感じ、すぐに決定しました。ポスターには企画書の全文を掲載していますが、ウィンドウのほうは一瞬で読め、かつインパクトを感じた、「民藝は、物でありながら物ではない。」という一言にしています。通常であれば主催者側は、展覧会名を表示させたいと思うのですが、クライアントはいつもこちらの提案を受け入れてくれます。

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「民藝の再発見 -柳宗悦の美学を導いた南砺の土徳-」ポスター(展示期間:2019年8月1日~9月29日)

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「民藝の再発見 -柳宗悦の美学を導いた南砺の土徳-」ウィンドウ(展示期間:2019年8月1日~9月29日)。ポスターのデザイン案を受けて表現が展開。

「富山の原木もよう展」のポスターは、原木の写真を使用しています。ウィンドウでは、これまでの施工方法とそろえるために、写真の原木のシルエットをデザインしました。ポスターのイメージと異なり、効果が薄れるかと心配していたのですが、この展開の仕方がおもしろいと高評価してくださる人もいて、ほっとした記憶があります。

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「富山の原木もよう展」ポスターとウィンドウ(展示期間:2019年4月12日~6月2日)

――一連の作品を通じて、特にこだわったポイントや苦労された点は?

宮田:「今度はどんなデザインなんだろう?」と見る人に思っていただけるようなものにしたいと考えています。正直、どんなデザインなら施工の苦労が大きいのかを私があまり理解していない部分もあるので、施工担当者さんには、予想外に大変な思いをさせてしまっていることがあるかもしれません(苦笑)。でも、私自身はそれほど苦労に感じることはなく、とても楽しく取り組ませていただいています。

展示のワクワク感を伝えるために使用したカッティングシート

――カッティングシートを今回使用した理由は何でしょうか?

宮田:展示場所である「D&DEPARTMENT TOYAMA」の空間をつくる4壁面のうち、1面全体が外に面したウィンドウになっています。展示が行われている高揚感を外側からも内側からも伝えたいと思ったときに、カッティングシートが最も適した素材だと考えたんです。

ある程度の透過スペースを確保しながら大きくビジュアルを入れることができ、施工の時間や予算が限られているという面からも、カッティングシートが条件に合っていました。“展示をデザインの力で盛り上げる”という思いに賛同してくれた施工会社さんの協力も大きかったですね。

――宮田さんが感じる、カッティングシートという素材がもつ魅力について教えてください。

宮田:透明のガラス面に、カッティングシートの文字が入っただけで「かっこいい!」と思わせてくれるところです。かっこいいを簡単につくれるところが魅力かなと。カッティングシートはわずかに立体感があってガラスよりマットですが、ガラス自体はツヤや透明感のある素材です。その素材感の違いの組み合わせが、そう思わせているのかなと感じます。

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「吉田桂介のデザイン -桂樹舎のある風景-」ウィンドウ(展示期間:2019年6月7日~7月28日)

――今後はどういった作品でカッティングシートを使用してみたいですか?

宮田:これまでの作品にもカッティングシートを使用したことはありましたが、機会はそれほど多くなく、自動車や電車の車体デザインや各種看板などに使用するといった、シンプルな使い方しかしてきませんでした。でも、今回を機にカッティングシートの特性を学んだので、今後はもう少し大胆な表現や使い方にもチャレンジしてみたいです。

デザインで人々の愉しい暮らしをサポートしたい

――ちなみに、今回CSデザイン賞に応募されたきっかけは何だったのでしょうか?

宮田:兼ねてからCSデザイン賞に応募してみたいと思っていた理由が2つありまして、ひとつは永井一正さんがポスターを手がけられていることです。毎年永井さんのワクワクするような生き物のデザインを見るたびに、CSデザイン賞への憧れが高まっていました。同時に、一貫して1人のクリエイターにデザインを依頼し、それが永井さんであることに、主催元である中川ケミカルさんのクリエイティブに対する姿勢を感じます。

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第21回「CSデザイン賞」永井一正さんによるポスター

宮田:もう一つは、審査員が一流のクリエイターの方々であることです。デザインコンペやアワードでは、誰が選定するかがとても重要だと感じています。CSデザイン賞の審査員の方々はとても魅力的で、選んでいただけたことの喜びは何倍にもなります。今回、本当に選んでいただいたのかいまだに少し不安ですし、受賞が本当のことならとても恐縮な心持ちです。

デザインすることは愉しいですし、いつもより良いものをつくりたいと思っていますが、いつまでたっても自信をもてません。出来上がりを見直すと、「なんだか、もっと上手く魅力あるものにならないのかしら…」と思ってしまうこともあります。でも、ウィンドウ越しに記念写真を撮ってくれているのを見た時は、効果があった気がしてとても嬉しくなります。

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「富山のロングライフデザインを見つけよう」ポスターとウィンドウ(展示期間:2019年12月6日~2020年2月16日)

――では最後に、宮田さんの今後の展望を教えてください。

宮田:最近になって、気になった地元の文化を取材して1冊の本にまとめる、知的障がいのある方の活動をデザインでサポートする、といった仕事をスタートしはじめたところです。私自身、表現する上で大切にしたいのが、「自分の仕事を通して“本質”を定着できるようにしたい」という心構えです。これからもその気持ちを忘れずに、デザインで身近な人の愉しい暮らしをサポートできるような活動を続けていけたら嬉しいです。

■CSデザイン賞
https://www.cs-designaward.jp/index.html

文:開洋美 取材・編集:石田織座(JDN)

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