3Dプリントの発想でカッティングシートを重ねた「光の年輪」:CSデザイン賞受賞者インタビュー

CSデザイン賞, Color Fab,グラフィックデザイン,建築

12:00

単色やメタリック、蛍光、透明など、全273色の豊富なバリエーションをもつ装飾用シート「カッティングシート®︎(以下、カッティングシート)」。開発元の中川ケミカルが主催する「CSデザイン賞」は、カッティングシートを活用した優れたデザインを発信・共有するためのアワードとして、今年で21回目を迎えました。

第21回「CSデザイン賞」の学生部門で金賞を受賞したのは、慶應義塾大学の大日方伸さん・木下里奈さん・高盛竜馬さんによる「光の年輪」。デザイン提案の課題となった、複合文化施設スパイラルのガラス面を、光を美しく透過させる淡いブルーの年輪が飾りました。

本記事では、「Color Fab」というデザインチームでともに研究・活動を行う3人に、作品のコンセプトやチームがテーマとしている表現方法、カッティングシートの素材としての魅力などをお聞きしました。

デジタルをフィジカルに“再翻訳”し、新たな表現を

――みなさんは「Color Fab」というチームを組んでいるそうですが、普段はどのようなテーマで活動しているのでしょうか?

大日方伸さん(以下、大日方):「Color Fab」は、慶應義塾大学の田中浩也研究室に所属するデザインエンジニアリングチームで、もともと僕が2人に声をかけたことをきっかけに始まりました。研究テーマとして取り組んでいるのは、「3Dプリンタを活用した新たな色彩表現の開拓」です。

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大日方伸 グラフィックデザイナー。慶應義塾大学x-Design/4D Fabrication Lab所属。3Dプリンタを現代における新しい着色ツールとして扱い、今までにない色彩表現をつくり出すことを目的としたデザインエンジニアリングチーム「Color Fab」主宰

大日方:3Dプリンタは新しい“形”を生み出す機械として世界中で活用されていて、複雑な形状のものでも形にできることからその機能性が注目されていますが、「モノ」は、“色”と“形”という2つの要素が組み合わさってはじめて「モノ」として成立する、というのが「Color Fab」の考えです。なので、形だけではなく新たな色の表現も3Dプリンタによって生み出せるのではないか?という仮説のもと、作品づくりを行っています。

――これまで制作してきた作品について教えてください。

大日方:3Dプリンタは、複雑な内部構造をつくれるのですが、例えば「TransColor Sphere」という作品では、色の付いたモジュールのようなものをいくつも組み合わせて一つの立体物をつくりました。内部まですべて色が付いていることで、見る角度によって立体物全体の色が変わって見えるんです。動画を見ていただくとわかりやすいのですが、CGを手の中で転がしているようなおもしろい見え方になっていて、学会や作品展で評価していただきました。

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「TransColor Sphere」高精度フルカラー3Dプリンタによる色彩表現の開拓を行った作品

大日方:同じく3Dプリンタで制作した「藍から藍へ」という作品は、展示イベントの「めぐるのれん展」に出展したのれんです。表面の凹凸と特殊なデジタル着色によって、見る角度や方向が変わっても、白から藍というグラデーションの向きが変わらないという作品です。

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「めぐるのれん展」に出展した作品「藍から藍へ」

――「TransColor Sphere」は、CGと合成されているのかと勘違いしてしまうような不思議な感覚でした。

大日方:デジタルでシミュレーションした構造や色彩をそのまま物質として再現することで、今までに見たことのない現象をつくり出すということを意識しているので、そう言ってもらえると嬉しいです。

CGも進化して、画面上でできないことはなくなってきました。これからは、CGのようなコンピューター上で発展してきた世界を、逆にフィジカルに“再翻訳”することで、物質の現象をレベルアップできると思うんです。そういった意味で、デジタルファブリケーションは、デジタルをフィジカルに翻訳する翻訳機のような役割だと僕たちは考えています。

スパイラルが歩んだ35年の歴史を“年輪”として表現

――今回「CSデザイン賞」で金賞を受賞された「光の年輪」について、作品のコンセプトを聞かせてください。

大日方:展示場所として決まっていたスパイラルが2020年に35周年を迎えるということで、作品の募集テーマは「35th Anniversary」でした。難しいテーマだなとも思ったのですが、もともとスパイラルで展示をしたりよく訪れていたこともあり、スパイラルが長いあいだ日本のアートを支えてきたという歴史の重みは感じていたんです。だから、その積み重なった歴史をストレートに表したいなと考え、スパイラルをみんなが集まる1本の大木に例えて、育ってきた歴史を年輪のような形で表現できたらと思いました。

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光の年輪。スパイラルのガラス面を3種類の年輪が彩った

――カッティングシートは何層になっているんですか?

大日方:年輪自体は35輪ですが、重なっているシートは3枚なので4層になっています。一番下の層が何もないガラス面、その上に順に色が濃くなるよう3枚のシートを重ねていくことで、色の濃淡と年輪の広がりを表現しました。自然界の年輪も、季節や温度変化によって濃い部分や薄い部分ができるので、その辺りもできるだけ自然の年輪を意識しました。

――「年輪」というコンセプトが決まり、形や表情についてはどうつくり上げていったのですか?

木下里奈さん(以下、木下):最初に大日方さんが「こういう感じのイメージでいきたい」というスケッチを描いてくれたので、それをもとに3DCADソフトでプログラムを組み、木の年輪のような形をつくっていきました。提案書の段階とはいえ、形を忠実に再現するのは結構難しかったですね。

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木下里奈 慶應義塾大学環境情報学部3年。4D Fabrication Lab 所属

大日方:実際に作品に落とし込む際は、年輪のような分布図ができる「カーネル密度推定」という数式があるのですが、この数式にスパイラルのこれまでの展覧会の数を当てはめてプログラミングしました。これは高盛が担当してくれたのですが、まさにスパイラルの歴史がそのまま年輪としてビジュアライズされています。そうしてできた模様を、中川ケミカルさんに加工していただきました。

高盛竜馬さん(以下、高盛):今回の応募とは関係なく統計の勉強をしていた際に、偶然、任意のデータから年輪のような形状をつくることができる「カーネル密度推定」を学びました。ただ単に年輪のような形状をつくることもできましたが、「カーネル密度推定」を用いることで、スパイラルの35年の歴史を年輪という形であらわすというコンセプトを、より深いものにさせられるのではないかなと考えました。

35年分のデータを使って年輪の模様をつくる中で、どのようなデータであればコンセプトにマッチするかといったことや、データを壊さずにきれいな年輪に仕上げるという調整で難しいところはありましたが、同時に、通常であれば面白味のない数値などのデータを、視覚に訴えかける年輪のような形状へ変化させられるという点はとても楽しんで制作できたと思っています。

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高盛竜馬 デザインエンジニア。慶應義塾大学 4D Fabrication Lab所属

光を透過させることでカッティングシートの特徴を引き出す

――カッティングシートは「IROMIZU」という透明色のシリーズが使われていますが、色味はどのように決まったんですか?

大日方:スパイラルは建築家の槇文彦さんの設計したポストモダン建築としてよく知られていますが、直線的なコンクリートの外壁がとてもかっこいいんですね。寒色系の白壁が青空によく映える。なのでその美しさに添うことができるような青色を使うことは最初から決めていたんです。

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作品に使用された「IROMIZU」の色のバリエーション。会期中は来場者が持って帰れるように、シールとして配布されていた

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外から見ると、建物とマッチした色合いになっていることがわかる

木下:提案書が通った後、中川ケミカルさんがつくってくださった1m×1mくらいのモックアップをスパイラルのガラス面にかざして、いくつかのパターンを試行錯誤しました。その中でいちばんきれいに見えたものを最終的に形にしました。

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モックアップを検証している様子

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パターンを検討した際のデータ

大日方:タイトルに「光の年輪」とあるように、光が当たることで床面に影が落ちることを想定していたのですが、モックアップの時点では影の感じがわかりにくかったんです。実際に展示された作品は、15時頃になって直射日光が差すと床にきれいな青い影ができ、最初に見た時には「うまくいったー!」とイメージ通りで本当に感動しました(笑)。

夜などほかの時間帯もまた違った見え方がありますが、光の加減でいちばんきれいに見える瞬間があるのは、旬があるというか“生もの”みたいな作品だなと感じました。最終的に建物込みで見たときに、年輪の青とスパイラルの雰囲気がマッチしていたのも、狙い通りで嬉しかったです。

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床に年輪の影がきれいに映っている様子

――見え方の部分で苦労されたんですね。ちなみにこれまでにカッティングシートを使った経験は?

大日方:これまでは展示のキャプションに使ったことくらいしかありませんでした。だから、まずは中川ケミカルさんのショールームに行かせていただいて、そこで素材に触れて、サンプルを持ち帰って、重ねるとどうなるのかなど検証するところから始めました。

――普段はデジタルファブリケーションを使った作品づくりが多いと思いますが、今回カッティングシートという素材が決まっている中で、これまで「Color Fab」で培ってきた経験が活かせた部分はありましたか?

大日方:今回僕たちはグラフィックデザインではなく、3Dプリントとして「光の年輪」をつくったと思っています。というのも、3Dプリンタの技術に「シート積層法」という製法があって、それは材料を1枚1枚切って重ねていくことで一つの3次元の物体をつくるものですが、今回の作業もまさに同じじゃないかなと。色の付いたシートを何枚か重ねることでしかできない光の表現や質感、そういうものを3Dプリントの発想でつくりたいという気持ちでした。その点では、これまでやってきたことと大きな違いはなかったですね。

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――カッティングシートを使用してみていかがでしたか?

木下:光を通して色がくっきりと出るのが本当にきれいだと思いました。今回の作品では同色系の色を重ねましたが、次は違った色同士を重ねて、きれいに混色が出るところも見てみたいという探究心がわきました。

大日方:まずここまで大きな作品をつくったのも初めてだったのですが、カッティングシートが光をこんなにきれいに透過することに驚きました。実際に施工する段階では立ち会うこともできて、「こんなにきれいに貼れるんだ!」って始終感動しっぱなしでした。

高盛:普段は3Dプリンタを用いて立体物の造形制作などを行っているため、カッテイングシートのような平面状のものを用いた制作ははじめての試みでとても新鮮でした。ずっと画面上で制作していた年輪を中川ケミカルさんに施工してもらうことで、3Dにはない2Dならではの良さや、カッティングシートという素材ならではの良さを改めて実感することができました。

視覚だけではなく、五感すべてを使って見る人に驚きを

――改めて、金賞受賞を振り返ってみていかがですか?

大日方:実は今の大学に入る時に、美大に行くか迷った時期があったんです。美大でグラフィックデザインを専門的に学ぶか、スタンダードからは少し外れますが、慶應義塾大学で学ぶかは自分にとって大きな決断でした。そのような中で、自分の選択した道で今回のような賞をいただいて認めてもらえたことは、とても感慨深いものがありました。

あと、今回は特にチームの結束力を感じました。僕は企画とディレクションで関わらせてもらいましたが、木下が僕のアイデアを提案書の段階までもっていってくれて、高盛がスパイラルの展覧会年表から年輪にビジュアライズするという、コンセプトにぴったりのプログラムを組み、中川ケミカルさんが施工してくださった。誰が欠けてもできなかったことだと改めて思います。

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施工時の様子

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――今回の受賞を受けて、今後はどんな作品づくりを目指していきたいですか? 将来の目標などもあれば聞かせてください。

大日方:「Color Fab」でも大切にしていることなのですが、見る人を一瞬で驚かせたいという思いがあります。最初にお伝えしたように、物質現象を底上げしていきたいという目標があって、それは大人だけでなく、子どもにも驚いてもらえるものでなければならないと思っています。さらに視覚だけではなく、音や感触、匂い、五感すべてを使って見る人に驚きを与えられたら最高ですよね。「光の年輪」も、シートを重ねているので触ると段々になっているのがわかりますが、実際に作品に触れたり、透過した光を浴びて気持ちよさそうにしている人を見れたのは嬉しかったです。

今は学生ですが、将来的にはデジタルファブリケーションを使って、手におさまるようなプロダクトから空間まで、さまざまなスケールのものを手がけられるデザインエンジニアリングチームとしてモノづくりができればいいですね。

木下:私は「Color Fab」として活動するようになって、3Dプリンタでこんなに幅広い表現ができるんだということをはじめて知りました。そして今回の「光の年輪」の制作で、色彩表現の楽しさを改めて感じることができたので、今後は単色の3Dプリンティングにとどまらず、色彩も含めたデザインを考えていければと思っています。

高盛:普段は3Dプリンタを用いて制作しているため、今回の制作を行うまでは、カッティングシートのような他の素材に目を向けることができていなかったような気がします。今後は制作方法を限定せず、3Dプリンタ以外の素材を使ったり、3Dプリンタと組み合わせることで新しい表現を生み出すような作品づくりを目指していきたいと考えています。

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文:開洋美 撮影:高比良美樹 取材・編集:石田織座(JDN)

■CSデザイン賞
https://www.cs-designaward.jp/index.html

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