こだわりの空間が新しい写真体験へ誘う、世界にひとつのカメラストア「北村写真機店」(2)

木住野彰悟, 6D, TONERICO:INC., 新宿 北村写真機店, 米谷ひろし,グラフィックデザイン,建築,ライフスタイル

8 11:40

あとから効いてくる“仕掛け”を施したヴィジュアルアイデンティティ

──木住野さんは、ロゴなどをデザインする上でどのようにアプローチされたのでしょうか。

木住野:こうして完成したお店に来ると、嗜好性が高いカメラが大事に置かれている店として、すごく自然に受け入れられる空間だと思うんです。でも、僕らのミッションは、今まで世の中になかったものをつくることでした。なので、見え方で個性をつくっていくヴィジュアルアイデンティティ(VI)についても、「そもそもカメラ店ってどういうものだろう?」というところから考えました。

まず最も気にしたのが、「主役であるカメラの邪魔をしないデザインにする」ということです。また、この店に来る方は、ひと口にカメラ好きといっても楽しみ方はさまざまで、各々勝手なこだわりであふれている。なのでデザインも、カメラと同じように、素材や印刷など細部にこだわったものにしようと考えました。

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木住野彰悟さん

──ロゴマークにもカメラの歴史が隠れているそうですね。

木住野:ロゴマークは、全体のイメージの旗頭となる重要なものだと考えて制作しました。カメラの原型である「カメラ・オブスクラ」の図を見ると、外側から光が入りピンホールを通って内部で画像が定着する仕組みが描かれています。この光のラインがマークにならないかと、ずっと思っていたんですね。それでラフを描いていたときに、これって北村の頭文字の「K」になるなと思いまして。そこで、真ん中のタテ棒をレンズをイメージして少し湾曲させてマークにしました。

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「カメラ・オブスクラ」の図からインスパイアされたロゴマーク(Photo by Shingo Fujimoto)

木住野:よくSNSで「Appleのマークは黄金比でできている」とか「Fedexのマークに矢印が隠れている」という情報が流れてくると、「えっ、そうだったの!?」となるじゃないですか。それによって何か変わるわけではないけれど、知っていると語りたくなる意味って重要なんですよね。そういうあとから効いてくる“仕掛け”みたいなものは、職人として仕込んでおきたいなといつも思っています。

書体についても、扱っている商品が質の高いものばかりなので、デザインでミスリードしないように、クセのない書体を選んで少し加工して使っています。印刷するときに出た滲みを書体にあしらってデザインしているんですが、そういうアナログな部分を加えることで「どこかで見たもの」というフィルターが入り、新しすぎない印象になるのではないかと考えています。

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目をこらして見ると、「A」の文字が滲んでいるような書体になっているのがわかる(Photo by Shingo Fujimoto)

──フォトケースやショッパーなどのアプリケーションも、シンプルなデザインが印象的です。

木住野:フォトケースは、プリントした写真を持って帰るためのアイテムです。若い頃、カメラマンが大判の印画紙ケースを持っているのを見てかっこいいなと思っていたんですよね。そんな記憶から、印画紙ケースのような雰囲気を出したいと思ってデザインしました。

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印画紙ケースのような雰囲気のフォトケース(Photo by Shingo Fujimoto)

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ショッパーもグレー、白、黒の3色展開(Photo by Shingo Fujimoto)

木住野:これらを持った人が街を歩くことで、北村写真機店のイメージが外に伝わっていくといいなと思っています。またこうしたアイテムは、イメージを統一するために同じ色にするのが一般的ですが、今回はグレー、白、黒の3色で展開しています。グレーは、この空間のキーカラーでもあるんですよね。

米谷:そうですね。空間全体を素空間、つまりスケルトンな状態をイメージしてマットなグレーで統一しています。ここを写真機が美しく映える、写真を撮りたくなるような場所にしたいと考えたときに、その背景としてニュートラルなグレーが一番ふさわしいだろうと思ったんです。

木住野:僕はこの空間を見たとき、1階と2階が明るい白で、上にあがっていくとライトグレー、そしてカメラの黒という印象が残ったんですね。それで各アイテムもその3色で構成することにしました。また素材は、地券紙というグレーの再生紙を白く塗って加工し、質感を高める工夫をしています。建物がざっくりとしたスケルトンの部分を見せて高級になりすぎないよう「抜け感」を出しているように、紙でも新聞紙のような素材を上品に扱い、建物をそのままデザインで表現するようなつもりで考えました。

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新宿 北村写真機店(Photo by Shingo Fujimoto)

余白を残しつつ、ディテールと空間を連動させる

──訪れる方に、注目してもらいたい場所はありますか?

木住野:階段室には写真家の濱田祐史さんの作品を配置しているのですが、これはぜひ見ていただきたいですね。もともと米谷さんから「空間で写真を全面に使いたい」と相談があって、コンセプチュアルな作品を撮られている濱田さんを推薦しました。

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新宿 北村写真機店 階段室。写真家の濱田祐史さんの川の流れを視角化した作品(Photo by Satoshi Asakawa)

木住野:A館にある「Flow Line」という作品は、川にLEDの光の玉を流し、長時間露光で撮影して川の流れを視角化したものです。こういう抽象的な作品は見飽きることがないので、壁面に入るにはすごくよかったと思っています。

米谷:実は6フロア分つながった、巨大な作品なんですよね。

木住野:そうなんです。一回見て認識してしまうよりも、じわじわと「そっか」と気づいてほしい。そんな空間体験も楽しめると思います。このプロジェクトでは、こうして細部まで一つひとつ、みんなで詰めて決めていったので、緊張感もありましたがすごく楽しかったですね。

──空間やデザインに、カメラを楽しむ仕掛けがたくさん隠れているんですね。

木住野:カメラ自体が緻密につくられたこだわりの塊なので、デザインもかなりこだわりましたね。封筒ひとつで30分くらい語れます(笑)。

米谷:見てすぐにはわからないかもしれないけど、実はマニアックに攻めてますよね。カメラ好きの方にはマニアックな人が多いと思うのですが、僕らデザイナーも負けていられない。「これくらいでいいだろう」と思ってやっていたら、たぶんバレると思うので。

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米谷ひろしさん

木住野:こだわりって、誰でも見た瞬間になんとなく感じとれるものですからね。特にこのプロジェクトではそれが必要だと思ったので、僕もかなり気合いを入れました。

米谷:普段からマニアック寄りの2人だと思いますが、ここではよりその密度が高まって、空間が充足している。カメラのような嗜好品を扱う館として、細かいところにこだわることは、信頼感や安心感にもつながると思っています。かといってカチカチにやり込むと、これまで来ていたお客さんやビギナー層が入りにくい店になってしまう。なので抜くところは抜き、余白のようなところは残しつつ、ディテールと空間を連動させる。それがここでは、ほどよい塩梅になってくれたように思います。

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写真にまつわるすべての体験ができる場所

──プロや愛好家はもちろんですが、そうではない人も、ここに来るとカメラの楽しさを発見できそうです。

木住野:高いものだからなかなか買えないけど、お店でレンズを見るのってほんとに楽しいんですよ。一回みんな、レンズ交換式のカメラを買ってみるといいと思います。最近、同じような業界や年代の人にカメラ好きが多い気がします。カメラが欲しくなるお年頃なんですかね(笑)。

米谷:時代を超える、タイムレスなものを求める年代なのかもしれないですね。あと、この店のいいところは、何時間でもいられるところ。これまで量販店や中古カメラ屋さんは、長時間過ごすという雰囲気ではなかったと思いますが、ここはカフェやサロンもあるのでそれができます。また、誰でも入りやすいようにニュートラルな雰囲気にしているので、カメラに興味がない人にも来てみてほしいです。

木住野:ブランド体験には場所が不可欠ですが、カメラを体験できる場所は今までなかった。でもここに来れば、カメラを買うだけではなく、プリントしたり展示を見たりと写真にまつわるすべての体験ができる。この空間のあちこちに散りばめられたカメラの楽しさを、ぜひここに来て体感していただきたいですね。

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取材・文:矢部智子 撮影:葛西亜理沙 編集:石田織座(JDN)

新宿 北村写真機店
https://www.kitamuracamera.jp/ja

※JDNアンケートは締め切りました。ご回答いただきありがとうございました!
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